12星座全体の運勢

「踊らにゃソンソン」

秋の気配が漂い始める「仲秋」へ入っていく直前の9月2日には、うお座で満月を迎えていきます。

初秋の風が吹くとされる9月1日から3日にかけて、富山県では毎年「おわら風の盆」という日本を代表するお祭りが催され、編み笠をかぶった人々が夜を徹して躍り続ける幻想的な光景が見られるのですが、その魅力は何と言っても、誰かに見せるためではない、純粋な自分の楽しみのための踊りである点にあります。

同様に、今回のうお座満月のテーマも「今を楽しむ」、すなわち、未来の払い戻しを夢見て無理を重ねつつ、今この瞬間のささやかな幸福を犠牲にし続けるのではなく、「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」くらいのゆるさで、あるがままに生きるモードへ入っていくことにあるのだと言えます。

そのためにも、今季はあまり大真面目になって特定の"実現すべき目標”や"あるべき理想”にはまり込んでしまうのではなく、まずは不意に流れてきた笛や太鼓の音(ね)に誘われて、フラフラと好き勝手に動いてみることから始めてみるといいでしょう。

獅子座(しし座)

今期のしし座のキーワードは、「生きて生き抜くため」。

獅子座のイラスト
山岸涼子の短編漫画に『朱雀門』という漫画があります。部活に励みつつも読書を好む中学生の主人公・千夏は、イラストレーターとして気ままな独身生活を送る素敵な女性である叔母が婚活を始めたと聞いて驚き、家に遊びに来た叔母と芥川龍之介の『六の宮の姫君』の話をします。

ある平安時代の姫君が親に死なれ、頼れる人もおらず、途方に暮れている。世話をしてくれた男も京から離れてしまい、泣いてばかりの日々を送った後、門の下で息を引き取る――。やがて門のほとりでは女の悲壮な鳴き声が聞こえるようになるのですが、それに対して法師は「極楽も地獄も知らぬふがいない女の魂でござる。御仏を念じておやりなされ。」というのです。

この結末に千夏は納得がいかず憤慨しますが、それを聞いた叔母はこう言います。

「あら そこが芥川龍之介のすごいところだわよ
「生」を生きない者は「死」をも死ねない…と彼は言いたいのよ」

この六の宮の姫君は、ただ周囲が何とかしてくれることを待つだけで、自分でどうこうしていない。そうして自分で自分を満たせないところを「「生」を生きない」と表現している。さらに叔母は続けます。

「生とはね、生きて生き抜いてはじめて『死』という形で完成するんですって」

つまりは生きるという実感がなければ、死ぬという実感がなくてあたりまえなのよ。六の宮の姫君が自分が死んだという実感もまたわからないまま死んだんだと思うわ。結局死をうけいれられなかったのよね

このあたりの二人の会話は、なぜ叔母が突然お見合いを始めたのかという謎とも関連するところなのですが、とはいえこれは、結婚とか婚活といった話に限った話ではないでしょう。

援助だけは受けながら人を深く愛することとは無縁に、楽に生きていこうとするよりも、誰かのそばで苦しみを抱えつつそれをなんとか許容して生きていくこと

それは叔母の選択であると同時に、今期のしし座にとっても重要な示唆を与えてくれるはず。自分という固有の生を完成させるためには、何が必要なのか。どうしたら「生きるという実感」が得られるのか。あなたなりに見極めていきたいところです。


参考:山岸涼子「二日月(山岸涼子スペシャルセレクションⅧ)」(潮出版社)
12星座占い<8/23~9/5>まとめはこちら
<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ