12星座全体の運勢

「呑み込むべき“寒九の水”を問う」 

2021年を迎えて最初の新月は1月13日にやぎ座の第三デカン(20から29度)で起こります。やぎ座の現実主義に水星の知性が加わるため、この新月では特に物事の本質を見抜く客観性が冴えわたっていくでしょう。 

二十四節気では1月5日より「小寒」に入ります。いわゆる「寒の入り」と言われ、冬至で「一陽」を得ることでかえって陰気が強まり、ますます冷えが厳しくなっていく頃合いとされています。そして、今回新月が起こる1月13日は寒の入りから9日目の「寒九」にあたり、昔からこの日の水(寒九の水)は特別な力が宿るとされ、餅をつくにも、お酒を造るにも、薬を飲むにも、珍重されてきましたが、この特別冷たい水こそが薬にも力にもなるという発想は、まさに今回の新月のテーマとも言えます。 

すなわち、人間が経験しうるもっとも純粋な自由というのは、厳しい規律や掟を受け入れ、従うことでこそ実現可能になるということ。さながら寒い時期ほど、一年を通して温度変化の少ない地下水さえもがあたたかく染み入るように感じられるように。あなたの人生に力を与え、解放させてくれるだけの「冷たさ=厳しい現実やその枠組み、ルール等」とは何か、それをいかに取り入れていけるかが今期 は問われていきそうです。

獅子座(しし座)

今期のしし座のキーワードは、「世に棲む患者」。

獅子座のイラスト
役に立つか立たないかで言えば、成功者の自伝ほど役に立たないものはありませんが(役に立たないから悪い訳ではないが)、実際に歴史上の天才たちが、いかにお手本にしたいとは思わないような日常を送っていたかを簡潔にまとめたのが『天災たちの日課』という本です。副題は「クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」。 
 
例えば、自分のことをカナダで「もっとも経験を積んだ世捨て人」と呼んでいた天才ピアニスト、グレン・グールドは、インタビューの中で自身のスケジュールについて次のように語っていたのだそうです。 
 
「僕はきわめて夜型の生活を送っている。その理由はおもに、日光があまり好きではないからだ。じっさい、明るい色はどんな色でも気分を落ち込ませる。僕の気分はだいたい、どんな日も、空の晴れぐあいと反比例するんだ。「暗雲の向こうには必ず銀色の光がある」ということわざがあるが、ぼくの個人的なモットーは昔からずっとその反対で「銀色の光の向こうには必ず暗雲がある」だ。だから、用事はできるだけ遅い時間に設定して、夕暮れにコウモリやアライグマといっしょに活動を始めるようにしている。」 
 
他にも彼のおかしなジンクスの数々を読んでいると、人間としてどうよ、と言いたくなる気持ちも出てくる一方で、精神科医・中井久夫の「世に棲む患者」という概念を思い出さずにはいられません。 
 
これは、患者を制限の多く抑圧的な「世の中」の“普通”に適応させるのではなく、むしろ「世の中」それ自体をもっと多層的なものとして捉え、その中での特異性を発明しつつ生き延びる人々を肯定するために使われたもので、まさにグールドのような人のための言葉と言っても過言ではないでしょう。 
 
その意味で、今期のしし座もまた、グールドのように生き延びるために“異常さ”をつぎつぎと発明するくらいの気概が欲しいところです。 


参考:メイソン・カリー、金原瑞人・石田文子訳『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』(フィルムアート社) 
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ