12星座全体の運勢

「適切に茫然とする」 

3月5日に「啓蟄」を迎え、青虫が蝶へと変わって春の立役者たちが次第に顔をそろえ始める中、3月13日にはうお座24度で満月を形成していきます。 

今回のテーマは「開かれ」。すなわち、本能的に茫然として放心することで、特定の対象や他者につねに関わりを持ち続けることをやめ、より純粋で本質的な震撼にさらされていくこと。その意味で、「開かれ」とはまったくもって非合理な説明でしかないのですが、それはどこかこの時期特有の季語である「山笑ふ」という言葉にも通じていくように思います。 

春の山の生き生きとして明るい様子を擬人化した表現なのですが、花や若葉の色合いなどがなんとなく淡くやさしく霞んだように見えるだけでなく、それが「ほほえみ」として決定的に到来するのが一体いつなのかは誰にも予測できません。 

自分に都合のいいレッテルにしろ、本音を隠すのに便利なスタンプにしろ、いつも頭の中になにかしら張り付けてしまいがちな人ほど、自然で生気にみちたエロティックな生に入っていくのは難しいものですが、今回のうお座新月はこれまで惰性で続けてきてしまった習慣や言動にいかに休止符をはさんでいけるかが共通した課題となっていくでしょう。 

そうして見えることしか見ないのではなく、見えないことも感じていくなかで、やっと人は自己の閉ざされから世界へと開かれていくことができるのです。 

牡牛座(おうし座)

今期のおうし座のキーワードは、「精神の明晰さ」

牡牛座のイラスト
「純情」とか「純潔」といった言葉くらい、現代社会において胡散臭いにおいをぷんぷん放っている言葉はないように思いますが、かといって不純や不潔が好きなのかと問えば、大方の人は首を横に振るでしょう。 
 
例えば、戦後まもない娼婦の街を舞台にした吉行淳之介の短編小説『驟雨』には、大学を出て3年目の独身サラリーマン・山村英夫という主人公が出てくるのですが、彼はつねに精神の平衡を保っていたいという理由から女性関係はもっぱら娼婦に通うことに限定しているという、年の割には老成した考え方の持ち主です。 
 
ところが、「この町から隔絶したなにか、たとえば幼稚園の先生の類を連想させた」、「若い美しい保母」のような道子という娼婦と出会い、彼女のいるお店に通い続けるうちに、ミイラ取りがミイラになって嫉妬に苦しみ始めます。 
 
ただ、その一方で「(娼家の風呂に入って)すっかり脂気を洗い落としてしまった彼の髪は、外気に触れているうちに乾いてきて、パサパサと前に垂れさがり、意外に少年じみた顔つきになった」とあるように、自分のなかに老成した大人と純粋な少年が同居していることに気付かされていくのです。 
 
つまり、普通は愛情と呼ぶものの中に少なからず混入された計算やエゴイズムに気付かない鈍感さや偽善や自己欺瞞を許容できない純粋さと明晰さこそが、そうして彼を娼婦の街へ赴かせる原因となっていたことが明らかになっていく訳です。 
 
今期のおうし座もまた、そんな風に男女や物事の在り様をまざまざと透視する吉行淳之介という作家の明晰さにならって、自身の言動の背後に潜むものを見つめていくことがテーマとなっていきそうです。 


参考:吉行淳之介『原色の街・驟雨』(新潮文庫) 
12星座占い<3/7~3/20>まとめはこちら
<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ