12星座全体の運勢

「花時へ立ち返る」 

いよいよ3月20日に「春分」を迎え天文学的にも春となり、その後はじめての満月が3月29日にてんびん座8度(数え度数で9度)で形成されていきます。 

今回のテーマは「触発されること」。たとえば、過去の偉大な芸術や文学作品の洗練された様式に触れることは、瞑想と同じような効果があるのではないでしょうか。いずれにせよ、混沌とした社会の中で新しい価値をさがそうとして迷っている時には、まずもって原点に立ち返ることが重要です。 

ちょうど、この時期の季語に「花時」という言葉があります。古くから、花と言えば桜。ですから、普通は「花時」といえば、桜の花が美しく咲いているあいだのことを言うのですが、とはいえ、私たちは桜が咲く前からいつ咲くかと心待ちにしたり、散り始めてからの方がより風情を感じたりと、それぞれにとっての「花時」を持っていたように思います。 

松尾芭蕉の「さまざまな事思ひ出す桜かな」という俳句のように、その時々に刻まれた思い出は、桜を見るたびに何度も蘇ってくるもの。もしかしたら、ひとりひとりの心の中に、「花時」という特別な時間軸があるのかも知れません。 

その意味で、今期は自分のこころをもっとも触発してくれるような「花時」に立ち返っていけるか、そこでしみじみとしていけるかということが、大切になってくるはずです。 

魚座(うお座)

今期のうお座のキーワードは、「無限の悲しみへのたしかな自覚」。

魚座のイラスト
文明以前ということをすっかり見失ってしまった現代人は、事の当然の帰結としてこの世界においてひどく傷つきやすい存在となってしまい、311を経た今もなお強情に文明への“引きこもり”を決め込んでいるようなところがありますが、そうした人間の悲しさを小説の世界で描いてみせたのがポール・ボウルズの『シェルタリング・スカイ』でした。 
 
話は第二次世界大戦後のニューヨークから始まり、倦怠期の夫婦であるポートとキットが、親友のタナーを伴ってアフリカ旅行へおもむくところから始まります。 
 
この旅行は一応は夫婦関係の修復が目的なのですが、一行が北アフリカのアルジェからサハラの奥へと向かううちに、夫婦はやはりうまくいかなくなり、キットはタナーに身を許し、ポートはチフスに罹って苦しんだのちあっけなく死んでしまいます。 
 
それを機にタナーは別行動を取り、ひとり残されたキットは途中さまざまなことを経験したのち、半ば錯乱状態となって旅の始まりの街であるアルジェへと戻ってきてたところで話は終わる。なんとも突き放されたような、切ないような、言葉にできない読後感が残るのですが、ここで改めて小説の冒頭で、男が眠りから覚めてから抱くある思いを振り返ると、これこそがこの小説の核心だったのかという不思議な納得感が広がるのです。 
 
どこかしらある場所に彼はいた。どこでもない場所から、広大な地域を通って戻ってきたのである。意識の革新には、無限の悲しみへのたしかな自覚があった。しかしその悲しみは心強かった。というのは、ただそれだけが馴染みのあるものだったからだ。」 
 
これは生誕によって時間の中に入ったことをきっかけに始まった存在論的分離の追体験であり、自分が世界における異邦人なのだという自覚の再生産に他なりません。ただ、現代人がそうして自己を欠如のあらわれとして把握する機会さえ失いつつあることを思えば、やはり立ち返るべき原点なのだと言えるのではないでしょうか。 
 
今期のうお座もまた、この小説の登場人物のように文明がその帰結として持たざるを得ず、何より自身がすでに抱えてしまっている“悲しさ”ということに想いを馳せてみるといいかも知れません。 


参考:ポール・ボウルズ、大久保康雄訳『シェルタリング・スカイ』(新潮文庫) 
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ