12星座全体の運勢

「早乙女のエロばなしのごとく」

6月5日に二十四節気で「芒種」に移ると、いよいよ田植えの時期。田園地帯の水面には空や木立や山が映り、光が踊っていきますが、そんな中、6月10日には双子座19度(数えで20度)で新月を迎えていきます。 

今回の新月のテーマは「自分が周囲へ与える影響の再確認」。すなわち、一通りさまざまな影響を受けとって、特定のことに感動しなくなってきたことで、かえって冷静に、じゃあどんな自分はどんな影響を周囲に与えていきたいのかを改めて考えていく。そういう動きをしていくには絶好のタイミングとなっていくように思います。 

例えば、民俗学者の宮本常一によれば、昔は田植え時には女たちがエロばなしに花を咲かせたり、セックスのうたを歌っていたそうで、「その話の中心となるのは大てい元気のよい四十前後の女で」「若い女たちにはいささかきつすぎるようだが話そのものは健康で」あったこと。また、「エロ話の上手な女の多くが愛夫家で」「女たちのエロばなしの明るい世界は女たちが幸福である事を意味して」いたそうで、今日では田植えも人の手から機械に任され、すっかりそんな光景も消えてしまいましたが、日々の労働をやわらげ、元気に過ごしていくための材料のニーズそのものは今も昔もそう変わらないはず。 

つまり、何かしらの不満に対しただ声をあげたり、孤立した個の力で対抗して終わってしまうのではなくて、かつての「元気のよい」早乙女たちのように、周囲を巻き込み、集合の力を効果的に使うこと、そのためにどんなタイミングでいかなる呼びかけをしていくべきかが、今回のふたご座新月を通して問われいくのではないでしょうか。 

あるいは、自分の考えや提案が、どれくらい他者の共感や支援を受けられるものなのかを確かめ、誰にどんな仕方で提示していくかを判断していくこともテーマになっているのだと言えます。 
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乙女座(おとめ座)

今期のおとめ座のキーワードは、「自分なりの倫理を貫く」。

乙女座のイラスト
平野啓一郎のデビュー作『日蝕』は、中世フランスの神学僧ニコラが錬金術師ピエェルについて洞窟に入った先で「陰嚢(ふぐり)」も「乳房」も備えた両性具有者を目撃するところから始まります。 
 
やがて異端審問官に捕らえられ十字架に掛けられて火あぶりにされた両性具有者の身体から生じた荘厳な光の充溢を、ニコラは否定もせず、その原因を究明することもなく、ただその神秘的な現象と一体化した感覚を肯定していきます。 
 
彼はキリスト教という「制度」と、そこから明らかに逸脱している両性具有者を信仰の対象とする「異端」のあいだで揺れ動きながらも、決して貴重な他者を「破滅させ」てまで制度に加担するような真似はせず、「魔女」として彼/彼女を迫害することもなく、「両性具有者は私であったのかも知れない」と自問を重ねていく。つまり、安易な判断を下すことなく、どこまでも自分なりの倫理を貫き、練り上げていこうとしていくのです。 
 
私は人の為す所に於ては、或る結果が、栓ずれば必ず唯一つの原因に帰着すると云う単純な楽観主義を益(ますます)信ずることが出来なくなった。一つの結果の出づる所は、我々の想うよりも遥かに微妙な混沌でしかなく、多くの場合、我々の見出す原因なるものは、有機的なるそれから切取られた一片のかけらに過ぎぬのであろう。」 
 
こうした語りからも、ニコラが外から罪の所在を断定するような行き過ぎた「正義」には懐疑的で、物事の因果関係をあえて“宙吊り”にしておくという手続きを行いながら、一連の無視することのできないような出来事に対していることが分かるはず。 
 
今期のおとめ座もまた、傷ついた人びとの苦しみに寄り添い、ケア的であらんとしていく上で必要不可欠な、こうした手続きを自分でも改めて踏襲し、実践していきたいところです。 


参考:平野啓一郎『日蝕・一月物語』 (新潮文庫) 
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ