【高畑充希さんスペシャルインタビュー】クールで熱い仕事観。「人間として分厚くなったほうが、面白いお芝居につながる」PhotoGallery
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舞台からキャリアをスタートさせながら、ここ数年は映画やドラマで大活躍。しかも、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』、ドラマ『過保護のカホコ』、『忘却のサチコ』、『同期のサクラ』など、出演する作品は常に大きな話題を集めている。その状況を、「メジャーリーグに参戦している感じ」と、独特の言葉で表現する。
「最初は、映画やドラマで知名度を上げて舞台にお客様を呼べる俳優にならなきゃって思ってたんです。でも正直、ここまで映像の世界が広がると想像してなかったからビックリしたし、『なんで私が?』っていう気持ちが大きかったかも。その驚きの時期を経て、今はまた新たなステージに立っている感じ。“メジャー”の楽しさを経験させてもらえたからこそ、今度は無理かもと決めつけていたちょっとマニアックな作品に、そろそろ挑戦してもいいのかなと思えるようになっています。人生であと何本出演できるかわからないけど、好きな人と好きな作品をやることも大切にしていきたい。デビューして15年。自分でも信じられないけど、“中堅”ですしね(笑)」
昨年の後半は、『同期のサクラ』の撮影で多忙な日々を送っていた。無事クランクアップを迎えてからは、話題となっていた映画『ジョーカー』を観ることができたそう。
「あれってもう、ひたすら悪いことが起こり続ける映画じゃないですか。私も『同期のサクラ』で悪いことが起こり続ける役をやっていたから、役に感情移入する以上に、演じている俳優さんの大変さに感情移入しちゃって(笑)。私と比べものにならない重圧をずっと抱えて撮影していたんだろうなって思いました。主演を任されるようになったここ2〜3年は、誰かのことを『すごい!』って思うことがより増えたかもしれません」 -
インタビューの冒頭、今回は仕事の流儀を聞かせてもらう予定ですと伝えると、うーんとしばらく唸ったあと、「あんまり考えたことないです」と申し訳なさそうにつぶやいた。「俳優としての自分に興味が持てない」から、流儀と言われても「?」なのだという。
「たとえば自分の役が嫌われたりしても、作品が面白くなったらオールオッケーです。最近はヒロインをやらせていただくことも増えましたが、少し前までは映画『アオハライド』とかドラマ『問題のあるレストラン』、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』とか、ヒロインを苦しめるヒール役を演じることが多くて。でも、ちゃんと作品の中でヒロインがかわいそうに見えたらオッケーだし、自分が演じる役も、掘り下げると結局すごく好きになっちゃうことが多い。となると、ヒールだとしても自分の中で『イケてる役だ』って思えたら、周りからどう思われても平気なんです(笑)」
周りのスタッフなどの意向に沿って仕事をする俳優さんも多い中、高畑さんは信頼するマネージャーと意見を交わしながら一緒に作品を選んできたという。
「結局、本当にやりたいって心から思ったことでないと全然がんばれないので(笑)。だからこそ、お引き受けしたからにはできる限りのことは全力でやるっていうスタンスでお仕事に向きあっています。選ぶ判断基準って一概には言えないんですけど。勘が頼りです。ただ、『たぶんこうなるだろうな』っていうゴール地点が見えやすい作品は避けてきているかも。だってどうなるか想像がつかない作品のほうが、ワクワクするから!」
仕事の流儀はないと言いながら、やっぱりちゃんと考えている。頭の中に広がる仕事への無限の好奇心を、耳あたりのいい単純な言葉で表現し、可能性を狭めたくなかったのかもしれない。 -
人気ウェブ漫画を福田雄一監督が映画化した『ヲタクに恋は難しい』では、山﨑賢人さんとダブル主演を務めている。
「賢人くんもすごいんですよ。私の何倍も主演を経験してきて、大作映画とかも背負いまくってきている人なのに、現場では本当に力が抜けていて(笑)。あそこまで脱力している主役はあんまり見たことがないかも。ダンスシーンも多いんですが、彼はあまりダンスが得意じゃないらしくて。周りのダンサーさんになかなか追いつけない状況でも、『なんかオレ、ダンサーのマインドになってきた!』って(笑)。普通の人ならプレッシャーに感じる状況さえもすごく楽しそうで、賢人くんを見てみんながズッコケる瞬間が何度もありました。もちろんご本人はすごく考えている人だけれど、何が起きてもトータルでオッケーにしちゃう人柄が、とても素敵だなって思いました」
劇中では、ヲタク心と恋心を歌い上げるシーンが盛りだくさん。高畑さんがいなければ成立しなかったのではないかと思うほど、多くの楽曲を担っている。山﨑賢人さんに負けず劣らず、作品を背負いがちなのは確かだ。
「本当は人の先頭に立つのがすごく苦手なんです。今回は歌やダンスを覚える時間がタイトだったので、現場ではとにかく必死でした。実は『同期のサクラ』の時も、お仕事を受けた時点ではサクラがあんな独特な人だと知らなかったんです。でも台本が上がってきたら、こんな人会社にいたらまずいでしょっていうキャラで(笑)。一歩間違えたら反感を買う役をどう愛してもらえるか。皆さんに感情移入して観ていただけるのか。すごく悩みました」
世間の多くの人はきっと、高畑さんをテクニックのある器用な俳優だと思っているはず。
「いいえ、全然器用じゃないんです。悩みながら苦しみながらやってるけど、それを周りに伝える技術がないのかも。家でもだえ苦しんでるのに『やれるっしょ!』みたいに思われているのは、損ですよね(笑)。ただ、私がイライラしても何もいいことはないし、平和主義なので撮影現場は楽しくしたい。ああ、これは美学かもしれないですね。家族とか親友とか、本当に大変なことをわかってくれる人はちゃんといる。だから、つらさを仕事場で出さなくてもすむのかも」 -
小学生の頃から舞台俳優になる夢を熱烈に抱いてきた。ただし、それを言葉にするのは恥ずかしくて、「人を感動させる仕事につきたい」と“ごまかしていた”過去もある。夢を叶えた現在は、その言葉どおり、多くの人を感動させる立場になった。
「ただ、自分に応援してくれるファンの方がいるっていうことが、どこかでいまだに信じられないんです。もちろん作品を面白いと言ってくださることはすごくうれしいし、お客様が喜んでくれることがいちばんだと思ってお仕事をしているのは事実。だけど芸能人としての自分には全然自信が持てなくて(笑)」
たぶん、それは言い換えると、つくり手として特別扱いされることに居心地の悪さを感じているからかもしれない。舞台や映画を観る時は「完全にファン目線」。エンターテインメントを受け取る側のみずみずしい感覚を、変わらずに持ち続けている。
「ドラマを観る時は来週どうなるんだろうってギャーギャー言ってるし、映画や舞台を観にいくのもすごく好き。俳優とは別人格でエンターテインメントを純粋に楽しんでいる感覚があるし、今もずっと、表現の世界に憧れているんだと思います」
ならば、憧れの仕事に命をかけていると言ってもいいはずなのに、彼女はずっと「お仕事はやっぱりお仕事。自分の人生を充実させることを大切にしたい」と断言してきた。そのスタンスは今も変わらない。
「プライベートで楽しいことや悲しいことを経験して人間として分厚くなったほうが、面白いお芝居につながると信じているんです。たとえばすごいフラれ方をしたとしても、しんどくてどん底まで落ちたとしても、絶対に役に還元できると考えられる。変わった仕事だなとは思うけど、そういうラッキーな部分はあると思います」
そして、経験を積めば積むほど「お芝居にうまい下手はないと思う」とも。
「演じている人自身が面白ければ、その魅力はきっとにじみ出るはず。これから年齢を重ねていけばいくほど、人間としての『面白さ』がお芝居で試されてゆく気がするんです。だから、やっぱりプライベートが大切。『仕事が命!』って感覚には、たぶん一生ならないと思います(笑)」
28歳の“中堅”俳優は、そう言いながら、最後には「年を取るのに向いている性格だと思うんです。どんどん自由になって楽しくなりそうな気がしているから」とにんまり笑って去っていった。きっと、10年後、20年後、そして“ベテラン”と呼ばれる域に達したとしても、「俳優としての自分に興味がない」と平然と言いながら、その演技で私たちの心を揺さぶり続けている気がしてならない。