【“新しい日常”で疲れないためのメンタルトレーニング】 その1・これからは人との付き合い方・コミュニケーションが変わる?PhotoGallery
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川野さんオススメの呼吸法
1)背筋を伸ばして、自然に呼吸しながら鼻から空気が入っていくのを感じる。
2)肺に空気が入って、胸やお腹が膨らむ感覚を感じる。
3)鼻から自然に空気が出ていくのを感じる。これを何回か繰り返す。 MORE:でも、カッとなった時の自分を冷静に分析するのは難しそうですね。 川野:そうなんです、自分を眺めるのはすごく難しい。「私は怒ってる」と分かったところで、怒りは怒り。ですから、怒りやネガティブな感情を抱いたら、さっと頭からつま先まで観察して、どこかに違和感がないか確認してみてください。これをマインフドフルネスでは「ボディスキャン」といいます。 MORE:一瞬でいいんですか? 川野:本来は40分くらいかけての体の感覚をひとつずつ丹念に観察していきますが、日常の中なら短時間でも構いません。首の後ろや肩が張ったり、胸がギュッと締めつけられたり、自律神経の作用によって現れる体の変化を意識すると、やがて自分を客観的に見られるようになっていきます。 MORE:それができると、人間関係も変わりそうですね。 川野:感情的に反応する人は、相手の言葉に被せ気味に意見を言う傾向があるので、相手は心地悪さを感じます。ところが、マインドフルネスによって冷静かつ穏やかな振る舞いができると、相手も「この人といると心地よい」と感じて、攻撃的な言葉や人格否定する言葉が出てこなくなるんですよ。 MORE:まさにポジティブな関係を育むトレーニングですね! -
教えてくれたのは……
川野泰周さん
臨済宗建長寺派林香寺住職。RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医、医師会認定産業医。住職としての寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたる。従来の療法に加えて、禅やマインドフルネスによる心理療法を積極的に導入している。『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書、共著多数。 MORE:新型コロナウイルス感染症による突然のリモートワークや外出自粛要請で、今までとは違う疲れを感じたり、SNSで感情的な発言をする人が増えている気がします。 川野:私たちは、他者に対して自分と「同質」か「異質」かで判断するという傾向を有しています。簡単にいえば、異質なもの=敵であり除外すべきもの。本来なら、新型コロナウイルスは人類共通の“敵”ですが、身近な生活においては「感染しそうな場所」や「感染の可能性がある人」が“敵”になってしまうのです。今をさかのぼること1世紀、心理学者のフロイトは、「すべての心の反応や行動は自分の心を守るためのもの」と説きました。ウイルスという目に見えない異質な敵が身近にある時代だからこそ、自己防衛のために攻撃的・否定的な発言をしやすい状況になっているのだと思います。 MORE:心の仕組みとして自然な反応とはいえ、攻撃的・否定的な言動を続けていると、性格まで変わってしまいそうですね。 川野:すでに、普段の性格からは考えられない否定的な発言をして周囲を驚かせる人が増えているようです。今は誰もが感情的な発言をしやすい状況だと念頭におくことが必要だと思います。そして、大切なのは「メタ認知」の視点を持つこと。 MORE:メタ認知、ですか? 川野:はい。心理学では、自分や他者の心理的状況を客観的に観察することを「メタ認知」といいます。たとえば、イライラしている友人から嫌味を言われても「彼女も余裕がなくて、ぶつけどころのない感情が私に向かって出たんだろうな」という風にメタ認知ができれば、相手の人格まで否定せずに済みます。それができずに感情的なやり取りをしていると、せっかく構築してきた楽しい関係まで断ち切れてしまいます。 MORE:まさに今の私たちに必要な能力ですね。 川野:そうなんです。ただ、今はテレビやSNSで情報が錯綜しているので「注意資源」を使い過ぎてしまう人も多いと思います。 MORE:注意資源って何ですか? 川野:私たちが何かに向けることのできる注意力のことです。心理学的にその総量は有限であり、注意資源を使い過ぎると一時的にメタ認知能力も低下すると考えられているんです。 MORE:氾濫する情報を追いすぎるとメタ認知まで低下して、結果的に感情に振り回されてしまうなんて悪循環ですね……。 読者からもこんな声が 「外出自粛やリモートワークの疲れか、イライラや不安が止まりません。つい友人や家族にもキツイ言葉をぶつけてしまい、自己嫌悪に陥っています」(28歳・不動産) 川野:人間は、五感のどこかを通じて情報が入ってきた瞬間に感情が湧くように見えます。しかし最近では、感情が表れるまでの一瞬、1秒よりはるかに短い間に、「認知」という処理過程が存在するとされています。 MORE:そうなんですね! 感情的な言葉をぶつけてしまう場合、どんな認知のズレがあるんでしょうか? 川野:例えば、注意されて逆ギレするケースで考えてみましょう。これは注意されたことに対して怒鳴っているのではなく、注意されることで「責められた」「否定された」という認知が湧き、それに対して怒鳴り返している状態。「責められた」という感覚に対して怒鳴る行為は変えられなくても、「責められた」と感じるかどうかは、トレーニングで変えることができるんです。 MORE:どんなトレーニングをしたらいいんですか? 川野:脳細胞が高速で働いて判断する一瞬の間に気づくためのトレーニングが「マインドフルネス」です。スピリチュアルなものと誤解されがちですが、大切なのは自分の呼吸など「今、ここにある、ひとつの感覚に意識を向けること」なんです。 MORE:えっ、呼吸ですか? 川野:はい。呼吸することにまずは集中し、ひと息ごとの深さや鼻の通り具合、お腹の動きなど、わずかな変化を観察する練習を続けるうちに、次第に心の中で起きていることに客観的に気づくことのできる感性が養われていきます。この「気づく力」が上がると「今こんなことを言われたから一瞬心がざわついてるな」と客観的に分析できるので、反射的に言い返すのではなく「どうしたんですか?」と相手のことを考えた振る舞いができるようになったりします。 -
禅僧であり精神科医でもある川野さんが、禅やマインドフルネスの考え方を取り入れた「心」や「脳」を休める正しい方法を紹介。41種類の中から自分に合った休息法を知って、セルフマネジメント力を高めて。¥1650/ディスカヴァー・トゥエンティワン