1980年──、いまから40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、2017年までに延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。

そして、恋愛やセックスがいっそう多様化している現在。MORE世代の女性の体験談を取材した新「モア・リポート」をお届けします!
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ーDATAー
桂さん(仮名)33歳 / 既婚 
初体験:14歳 / 経験人数:5人 / セックスとは:大切な命を繋ぐもの
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ゴールの見えない不妊治療

体温管理表のイメージ写真
ーー6年間の不妊治療の末、出産を?

 はい。不妊治療の末、昨年男の子を出産しました。
少しお休みしていた時期もありますが、27歳から32歳までの6年間、不妊治療を続けました(以下、桂さん)

ーー妊活をはじめようと思ったきっかけは?

結婚したのが22歳だったこともあり「フットワークの軽いうちに海外を回りたい」「仕事をバリバリしたい」という気持ちが強くて、最初の3年くらいはまったく子作りを考えていませんでした。

初めて「子どもが欲しい」と強く思ったきっかけは、おじいちゃんが亡くなった時です。

おじいちゃんが急死した時、お通夜とお葬式に私の兄弟や従兄弟、孫だけでなくひ孫まで集まって。みんなバラバラのところに住んでいたのに、すぐにおじいちゃんの元に駆けつけたんですよ。その光景を見た時に純粋に「いいな」と感じたんです。最高のエンディングだなと。

もし、おじいちゃんに子どもがいなかったら、これは全部なかったことなんだと考えたら不思議な気持ちになりました。

おじいちゃんが繋げてくれた命のバトンを私も繋ぎたいと思って、妊活を始めることにしたんです。

 ーー最初はどのようなことからはじめましたか?

最初は「コウノトリ」という妊活アプリに登録して、タイミングを見るところからスタートしましたが、全然妊娠しなくて……。

少し生理不順があったりもしたので、まずは婦人科に行って検査を受けました。そこで、自然妊娠が難しいことが分かり、不妊治療専門のクリニックを紹介してもらったんです。

主人も一緒に検査を受け、治療を頑張ろうと約束しました。お互い両親には、治療していることを黙っていました。

妊活はゴールが見えない上に、保険適応外の検査も多く、高い治療費がかかります。出産に至るまで5つのクリニックに通いました。ある月の治療費は40万円を超えて……。お会計で普通に「何十万円です」と言われるので、金銭感覚がおかしくなりそうでした。

仕事と治療を両立

仕事と治療を両立のイメージ写真
ーー仕事を続けながら、治療を?

はい。妊活を始めた27歳の時に営業の仕事を辞め、ママさんたちが多く働いていた在宅可の仕事にシフトチェンジしました。
「いつ出来ても大丈夫」と準備万端だったけれど、治療には高い費用もかかるので、しっかり働いていましたね。

1番辛かったのは、2週間連続で通院と仕事を両立しないといけない時期があったこと。

妊活のクリニックはイレギュラーの対応もあるし、全然時間通りに診察が始まらなくて……。だからといって、仕事に遅刻するわけにもいけないので、いつも時計を気にしていました。

病院を出てからはダッシュで職場に向かわなきゃ間に合わないし、職場を出て帰宅してからも眠気で意識が飛ぶまでは仕事をしている毎日でした。

自分の理想の暮らしとかけ離れていて涙が溢れてきたし、髪の毛を振り乱しながらヒールで走って電車に駆けこむ姿を恥ずかしくて人に見られたくないなとずっと思っていました。

長い治療に疲れ、2年前には1年ほど妊活をお休みしていたんです。

「育児って大変じゃない?」と聞かれたときに思うこと

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ーー大変な思いをたくさんされたのですね。それでも妊活を再開したきっかけを教えてください。

妊活をお休みしている間に、コロナ禍に突入しました。

仕事やプライベートの外出が減り、時間にも心にもゆとりができた頃「実は妊活を始めたの!」と友人が報告をしてくれることがあって。

出産に向けての夢や希望を語る友人にかつての自分の姿を重ねて、知らず知らずのうちに封印していた「子どもが欲しい」という気持ちが蘇ってきたんです。

私ももう一度挑戦してみようと、その日のうちに予約を取り、翌日から通院を再開しました。まさに「思い立ったが吉日」です。

驚くことにその月に授かることができました。
さらに奇跡的なことに、その友人も妊娠し、私達は同級生の男の子のママになったのです。

妊活を通して友人との絆が深まりました。この先何があっても出産に向けて励ましあったことは忘れないと思います。あの時、諦めなくて本当によかったなと思います。

主人もとても喜んでくれました。妊活中は傷つくこともたくさんありましたが、辛かった経験が多かったからこそ、寄り添ってくれた方々への有り難さを感じることができました。

「育児生活って大変じゃない?」と声をかけていただけることも多いですが、私のなかでは思っていたより快適に子育てができています。

今の自分が育児生活が出来ているのも念願叶ってのこと。だから、多少のことは気にならないんだと思います。辛い経験をたくさんしただけ、強くなれました。

不妊治療の保険適応が拡大

赤ちゃんのイメージ写真
ーー妊活を通して、考えたことを教えてください。

これから子どもが欲しいと思っていらっしゃる方がいるとしたら、早い段階でパートナーと一緒に「ブライダルチェック」などの検査を済ませておいたり、情報収集をして視野を広げておくとよいと思います。
私は妊活中~出産まで、助産師の方のyoutubeを見て勉強していました。

妊活に明確なゴールは見えませんが、事前に準備をしておくことで未来を変えることができるかもしれません。

今後、不妊治療の保険適応が拡大されるのも嬉しいですよね。

私も息子が1歳になる6月から、二人目の妊活を開始しようと思っています!
取材・文/毒島サチコ