悲劇的な運命に翻弄された歌姫の純粋すぎる恋を描く『AMYエイミー』
エイミー・ワインハウスと聞いて思い出すのは、グルーヴ感のあるハスキーな歌声と一度聴いたら忘れられないキャッチーな名曲の数々です。ただしそれに付随してくるのは、ひと目で摂食障害とわかるガリガリに痩せたカラダとうつろな目、泣きはらして滲んだメイクとボロボロの靴でパパラッチの写真に収まる痛々しい姿。2008年のグラミー賞で5部門受賞を成し遂げた天才シンガーは、複雑な家庭環境や激しい恋愛関係、ドラッグやアルコールによる様々な問題を抱え、ゴシップの格好のターゲットになった人でもありました。本作は27歳の若さで2011年に急逝した彼女の知られざる素顔を描き、アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した話題作です。
映画を見てまず驚くのは、思わず「この人誰?」とつぶやいてしまうほど初々しいエイミーの姿。トレードマークだった極太キャットラインや大きなビーハイプヘア、全身に入れられたタトゥーは見る影もなく、屈託のない笑顔をカメラに向ける10代の頃の映像は、友人に囲まれて青春を送っていたごく普通の女の子だったことがわかります。もうその時点で涙腺を刺激されますが、やはり一番注目してほしいのは元夫であるブレイクとの恋愛。恋人がいた彼と恋に落ち、一度は破局するものの復縁して結婚。その間のエイミーの心の葛藤は、まるでジェットコースターのように激しく揺れ動き、ブレイクの影響でドラッグにも手を出してしまうのです。
ヒモ同然のダメ男になぜそこまで惚れたのかという疑問は拭いきれませんが、ブレイクと出会ったことで女性として大きな喜びを知り、また絶望的な悲しみも経験したエイミー。「誰を愛するかで、どんな自分になりたいかがわかる」と言うように、相手の男性によって天国にも地獄にも行けてしまう恋愛の複雑さを実感させられます。ただし、そのことがシンガーとしての彼女に深みを与えたことは言うまでもありません。ゴシップ写真からはうかがい知ることができなかった人生のキラメキはもちろん、悲劇的な運命に翻弄されたな深い孤独を知ることで、エイミーが遺した名曲と赤裸々な歌詞に、より共感することができるはずです。
(文/松山梢)
●7月16日(土)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー
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