人間は違うからこそおもしろい!? 奇跡の出会いと奇妙な交流を描いたフランス映画『アスファルト』
フランス郊外にある古ぼけた団地を舞台に、一見どこにでもいそうな人々の、ちょっとありえない出会いと奇妙な交流を描いた作品です。とにかく冒頭から惹きつけられるのが、登場人物たちの人間味あふれるキャラクター。事故で車椅子生活となった中年男と、彼とひょんなことから出会う夜勤の看護師。団地に引っ越してきた落ちぶれたベテラン女優と、その隣に住む10代の少年。団地の屋上に不時着してしまったNASAの宇宙飛行士と、彼を自宅に招き入れるアルジェリア人マダムなど、3組の男女が車椅子や栄光の座、空などから“落ちてきた”ことで出会い、絆を育んでいく様子が描かれます。
特に注目なのが、団地のエレベーターの交換費用を拒み一切使用しないことを約束したにも関わらず、車椅子生活になってしまった中年男スタンコビッチのダメ男ぶり。住民がエレベーターを使用しない深夜を見計らって団地を抜け出し、病院の自販機でスナックをむさぼったり、たまたま見た『マディソン郡の橋』のクリント・イーストウッドに影響を受け、心惹かれた看護師に「ロケハンをしに来たカメラマンだ」と大ボラを吹いたり、テレビ画面を映した写真を自分の作品として自慢したりと、人間的な小ささとプライドの高さに呆れてしまいます。ただし、人を笑わすこともできないつまらない男だったスタンコビッチが、ピンチを恋するパワーで乗り越え、自分の殻を破ったことで初めて孤独な看護師を笑顔にするシーンは、ある意味感動的です。
他の登場人物たちもみんな、生まれた時代や育った環境、言語も生活スタイルも違う人ばかり。当初はコミュニケーションもろくに成立しなかった彼らが、互いの違いを受け入れて不器用ながらも歩み寄り、少しだけ現状から“上る”様子は最高にチャーミング。想像力を刺激する少ない台詞とインパクトのある映像表現、ちょっと残酷でクスッと笑えるユーモアにあふれた大人のコメディです。ちなみに出演者も魅力的で、落ちぶれた女優役はフランスの大女優、イザベル・ユペールが軽やかに演じ、彼女と心を通わせる少年役には、本作の監督であるサミュエル・ベンシェトリの息子、ジュール・ベンシェトリが熱演。母親である故マリー・トランティニャンの面影を宿した美少年ぶりにも注目です。
(文/松山梢)
●9/3〜ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次ロードショー
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