バツイチ、再婚……。本当の“家族”になれるのか? 浅野忠信主演映画『幼な子われらに生まれ』
赤の他人同士が家族になる結婚は、当事者だけでも大きな労力が必要なのに、再婚同士だと人間関係もより複雑になるし、直面する問題も様々。この作品は、お互いに離婚歴がある再婚カップルが葛藤し、ぶつかり合いながらも家族になろうとする姿を描いたヒューマンドラマです。「ビタミンF」や「流星ワゴン」、「とんび」など数々のベストセラーを手がけている直木賞作家・重松清の同名小説を、『しあわせのパン』、『繕い断つ人』の三島有紀子監督が映画化しました。 主人公は妻の奈苗(田中麗奈)とバツイチ同士で再婚し、連れ子ふたりとともに郊外の住宅街で暮らしているサラリーマンの田中信(浅野忠信)。一見いいパパを装いながら、キャリアウーマンである前妻の友佳(寺島しのぶ)との間に生まれた実の娘と、3か月に1度会うことも楽しみにしていた。ところが奈苗の妊娠が発覚したことで、血のつながらない多感な年頃の長女は反発。「本当のパパに会いたい」と言われてしまう。憤りを感じた信は、長女を奈苗の元夫の沢田(宮藤官九郎)と会わせようと決意するものの、あろうことか金銭を要求されてしまう。血のつながった他人、血のつながらない家族との関係に息苦しさを覚え自暴自棄になった主人公は、これから生まれてくる新しい命からも目を背けてしまう……。 複雑な人間関係に苦しむ信の姿は気の毒にも思えるけれど、女性からみると男の身勝手さを感じてしまうのも事実。ギャンブルや女遊びに走り、DVが原因で離婚した沢田はもちろんダメ男だけど、前妻とはタイプの違う家庭的な女性と平穏な暮らしを送りながらも、依存体質でまとわりついてくる妻にイライラしたり、連れ子と実の娘とを比較してしまったりする信も、沢田と似た未熟さを持っている不器用な男。もちろん、あらゆる選択を夫に委ねる奈苗や、相談せずに人生の決断をする友佳、ストレートに怒りを表現する長女や、気持ちを押し殺す実の娘など、誰もが不完全なひとりの人間。見ればきっと登場人物に誰かに自分を重ね、胸がチクリと痛む瞬間があるはず。他人同士が家族を築いて行く上での難しさと面倒臭さ、そして乗り越えたときの小さな幸せを丁寧にすくい取る、リアルで見応えのある作品です。 (文/松山梢) ●8/26〜テアトル新宿ほか全国ロードショー ⓒ2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会