何気ない日常がほんの少しハッピーに! ジム・ジャームッシュ監督のデトックス映画『パターソン』
夏の盛りを過ぎてちょっぴり秋の気配が漂うこの時期、コーヒーを飲みながらほっとひと息つく感覚で観てもらいたい作品をご紹介。メガホンを取ったのは、世界中の映画人からリスペクトされている巨匠ジム・ジャームッシュ監督。前作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』以来4年ぶりとなる最新作です。物語の舞台はニュージャージー州パターソン。そこで暮らすバス運転手で詩人でもあるパターソンの7日間を追っただけのシンプルな物語です。朝6時過ぎに起床し、隣に眠る妻のローラにキスをし、朝食をとり、歩いて車庫まで行き、運転手としての業務をこなす……。毎日律儀に同じ行動を繰り返すパターソンですが、世の中を澄んだ瞳で見つめる彼の視点に寄り添えば、シンプルな日常のわずかな変化がドラマチックに浮かび上がり、小さな幸せを見つける秘訣を教えられるよう。 監督も、「物語の構造はシンプルであり、彼らの人生における7日間を追うだけ」と語りますが、同時に、「この映画はダークでやたらとドラマチックな映画、あるいはアクション志向の作品に対する一種の解毒剤となることを意図している」と解説。その言葉通り、ジャームッシュ監督が紡ぐミニマルで洗練された映画のシャワーを全身に浴びれば、無意識に背負っていた理想や責任や先入観がスッキリと洗い流されたような気分に。自分の人生の役割とは何か、自分らしい生き方とは何か、人とコミュニケーションを取り、良好な関係性を築いて行くコツは何かを静かに考えさせられる爽やかで希望溢れる物語です。 パターソンを演じたのは、『ヤング・アダルト・ニューヨーク』のいけすかない若者役や『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のカイロ・レン役、『沈黙-サイレンス-』の宣教師役など独特なキャラクターを多く演じてきたアダム・ドライバー。特徴のある顔立ちも相まって、どうしても“フツーの人”のイメージを抱きにくいけれど、本作では実直な労働者でありロマンティックなアーティストでもあるパターソン役を好演。特に独特なセンスを持つ美しい妻の才能を称え、ちょっぴり口に合わない料理も受け入れ、包み込むような低音で愛を囁く姿はまさに理想の夫像! 決して相性ピッタリではなさそうなのに、お互いを“思いやり”というささやかだけど強力な柱で支え合っている夫婦の姿が、最高にチャーミングでした。ちなみに映画の後半に登場し、パターソンに影響を与える日本の詩人役には、『ミステリー・トレイン』以来27年ぶりにジャームッシュ監督作品に出演となる永瀬正敏が登場。こちらにも注目を! (文/松山梢) ●公開中 Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.