幽霊やゾンビより怖い!? 香川照之の怪演に背筋が凍る映画『クリーピー 偽りの隣人』
心霊現象に肝を冷やしたり、ゾンビに襲われてビックリしたりと、怖い映画はたくさんありますが、今回は得体の知れない恐怖がじんわりと迫ってくる、じめじめした梅雨の季節におすすめのサスペンス・スリラーをご紹介します。幽霊もゾンビも出てこないこの作品がなぜ怖いのかと言うと、恐怖の原因がなかなか明かされないから。そして見るからに怪しい隣人に違和感を覚えても、決定的な証拠がないので主人公の訴えはまったく周囲に理解してもらえないのです。
西島秀俊演じる主人公は6年前に起きた一家失踪事件の分析をしている、元刑事で犯罪心理学者の高倉。妻・康子(竹内結子)と引っ越したばかりの新居で平穏な生活を送っていたものの、隣人・西野(香川照之)との噛み合わない会話や彼の一貫性のない態度に警戒心を抱いていき、ついには西野の中学生の娘から「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」と告げられ愕然。そして高倉は、6年前の事件と隣人一家の不可解な繋がりに直感的に気づいていきます。
メガホンを取ったのは黒沢清監督。薄暗い映像と恐怖がひたひたと迫ってくる不穏な空気が緊張感をあおりますが、さらにこだわったのが隣人・西野を演じる香川照之の芝居の微調整。なぜなら「香川照之が演じると、観客は疑って観る」から。それもそのはず。ファーストショットから香川の安定の怪しさはじっとりと映画にまとわりつき、とりあえず「逃げてー!」と叫びたくなります。「西野の怪しさを観客や高倉にどれくらい提示するのかに気を使いました」と監督が語る怪演は必見。この世でいちばん怖いのは、幽霊でもゾンビでもなく人間だということを改めて実感させられるトラウマ級のサスペンスです。
(文/松山梢)
●6月18日(土)より全国ロードショー
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