“すごい”としか言いようがない! 映画『セッション』
その映画がどんな映画かを語るとき──俳優の演技が素晴らしかったとか、涙が止まらなかったとか、ハラハラドキドキして違う世界を体験したとか、感動を伝える言葉はたくさんありますが、2014年度のアカデミー賞で5部門にノミネートされ、3部門(助演男優賞/編集賞/録音賞)を受賞した『セッション』は「すごい」「ものすごい」としか言いようのない映画です。
ストーリーはとても単純。名門音楽大学に入学したドラマーのニーマン(マイルズ・テラー)と伝説の鬼教師フレッチャー(J・K・シモンズ)、教えられる者と教える者のレッスンを描いた物語なんですが、その単純なストーリーの何がすごいかって、“狂気”です。ニーマンのドラマーとしての才能を引き出すためにフレッチャーは、これでもか、これでもかと完璧を求めて追いつめていく。その狂気が半端ない! さらにその狂気に負けるものかとニーマンも狂気で応える。「なんですか? この教師と生徒?」って感じなんですが、才能はこうやって開花するのか……と、いつの間にか見入ってしまうんです。
この映画のアイデアはデイミアン・チャゼル監督自身の実話がもとになっているというのも驚きです。しかもこの監督、『セッション』が初の長編映画でありながらアカデミー賞をはじめとする世界の賞レースを席巻している、それもすごい。人が限界に臨んでいく狂気を受け止めるのはもしかすると難解……かもしれないですが、そんなこと考える暇もないくらいあっという間の107分。きっと「すごい」と言いたくなるはずです。
(文/新谷里映)
●TOHOシネマズ新宿ほかにて公開中
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