デビュー10周年! 溝端淳平さんインタビュー 「自信のあることよりも想像がつかないことのほうが、今は楽しいんです」
正義に燃えるヒーロー、なのにいいかげんでガキ大将。 そのギャップを楽しんでもらえたら。
――映画会社の会議室で始まった取材は、スタッフと談笑しているうちに5分もかからず撮影が終了。それがあまりにあっという間だったのか、すかさず「え!? もう大丈夫ですか!? もっとカッコいい顔もできますけど!(笑)」と言う溝端さん。お言葉に甘えてカッコいい顔をリクエストすると、「嘘です、ごめんなさい! さっきのが限界です(笑)」と今度は照れ笑い。そんなふうに、周りをなごませる気遣いも“笑い”に変えてしまうような、天性の明るさを持つ人だ。 5月13日に公開される主演映画『破裏拳ポリマー』で自由奔放で型破りなヒーローを演じたことにちなんで、「最近正義感を発揮したこと」を聞いたときもこんなエピソードを話してくれた。 「僕は“ゼロか100か”みたいな人間なので、優先席を譲らない若者とかちょっと感じの悪いタクシーの運転手さんとか、すぐに言っちゃうタイプ。『それちょっと違うんじゃないですか?』って。一度、イライラしたようにレジカウンターを指でトントン叩いている店員さんがいたので、こっちもトントンって裏でリズムとったこともあるんです(笑)。そうやって笑いに変えられたら、ほんとはいちばんいいんでしょうけどね」 ――映画『破裏拳ポリマー』は1974年にタツノコプロが生んだ同名アニメの実写化で、身につけると軍隊をも破壊できるほどの絶大な力を得ると言われる「ポリマースーツ」をめぐる正義と悪の戦いを描いた本格アクション作品。溝端さん演じる主人公の鎧武士(よろい・たけし)は探偵にして流浪のストリートファイター、そして奥義“破裏拳”を操る拳法の達人。もちろん男らしくてかっこいいヒーローなのだが、最初にスクリーンに登場するそのシーンは別の意味でインパクト抜群! 「現場で僕から言ったんです、ズボン脱いでいいですかと(笑)。パンツいっちょで出てきたほうがおもしろいですよねって。お芝居するときには台本の最後から逆算することが多いんですけど、そうやって組み立てたときに、武士は最初はどうしようもないというか、ダメな人間であればあるほどいいなと思いました。いいかげんで、ガキ大将的に人を巻き込んで、一緒にいたらちょっと煙たがられるような。正義に燃える姿とか本当は知られたくない過去を抱えている姿とのギャップがある方が人間的におもしろいなと考えて演じましたね」 ――その言葉どおり、「いいかげんで、ガキ大将的」だった武士がポリマースーツをまとって戦うアクションシーンは、思わず息をのむ迫力! そして女性なら誰もがときめくかっこよさ! 本格的なアクションは初挑戦という溝端さんは、4か月間みっちりトレーニングを積んで撮影に臨んだという。 「この作品の格闘シーンは“ケンカ”じゃなくて、カンフーのきれいな型の中で戦わなきゃいけないので、ごまかしがきかないというか、技をきれいに見せるところに難しさがありました。でも坂本(浩一)監督自身がハリウッドで『リーサル・ウェポン4』に出られていたくらい、動けるし型も知っているし撮られ方もよくわかっている方。毎回稽古の最後に監督が動画を撮ってくれてそれをチェックしながらトレーニングをしていたんですが、止まった瞬間の形ひとつ、首の振り方ひとつ、目線を動かすか動かさないかだけでも全然見え方が違ってくるんです。激しい動きができればいいっていうわけじゃなくて、勢いと冷静さは両方持ってないといけない。そういう意味では、アクションもお芝居と共通するところがあるのかなと思いました」
シンプルに、お芝居が好きになった。 それが10年でいちばん大きい変化。
――役柄や作品について語る口調はとても熱く、お芝居の楽しさや新しい挑戦について語る眼はキラキラ輝いている。デビューから10年という年月を経た今もなお。 「去年アーサー・ミラーの舞台をやったりとか、京都で時代劇を撮ったりとか。アクションもそうですけど、最近いただく仕事は初めてのことが多いんです。『よっしゃ! これならできる』っていうことよりも、『ちょっと想像つかないな』と思うことのほうが今は楽しみというか。単純に、お芝居が好きになったんでしょうね。17歳でいきなり“ジュノンボーイ”という形でデビューさせてもらって、和歌山の田舎者だった自分が東京に出てきてこの世界に飛び込んで。お芝居は楽しむ前にいきなり“仕事”っていう感じが強かったんです。周りの大人たちの顔色をうかがいながら、それまでは感じたことのないプレッシャーを感じてなるべくそれにこたえようって思うばっかりで。でも最近は、自分でこれが楽しい、これがいいって思えるし、欲も出てきました。それが10年でいちばん変わったことかもしれないですね」 ――そんな変化を物語るように、10年がんばった“ごほうび”に何がほしい? という質問にも「仕事がほしいです!」と即答した溝端さん。 「仕事がほしいというか、もう一度蜷川(幸雄)さんと舞台をやりたいですね。自分の中では舞台での経験がいちばん自分を変えてくれたと思っていて。舞台ってカメラがあるわけじゃないし、編集できるわけでもない。その場で起こったことがそのままお客さんに伝わるっていうものすごく怖い仕事なんですけど、そこで蜷川さんに『バカ、へたくそ、お前なんか俳優に向いてない、やめちまえ』って言われながら丸裸にされて。すごくつらかったんですけど、それがいろんな余計なものを取り除いてくれて、自分を見直すきっかけをつくってくれました。だから“ごほうび”っていうなら、蜷川さんと、(吉田)鋼太郎さんと(藤原)竜也くんと、もう一度一緒にできたらいいな。『何がいいかな? ハムレットかな、リア王かな』なんて考えたりします」 ――そして取材の最後には、こんなことを言ってやっぱり笑わせてくれた。 「以前阿部寛さんに『俳優は30歳からだ』って言われて、だから20代のうちは何でもやって30になってからがスタートだと思っていたんですが、つい最近鷲尾真知子さんには『俳優は50歳からだよ』って言われて。まだまだ先は長いですね(笑)」
【プロフィール】 みぞばた・じゅんぺい●1989年6月14日、和歌山県生まれ。2006年、「第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞し、2007年に俳優デビュー。現在、主演ドラマ『立花登 青春手控え2』(NHK BSプレミアム・金曜20時~)が放送中。9月から舞台『ミッドナイト・イン・バリ ~史上最悪の結婚前夜~』に出演。
【作品情報】 『破裏拳ポリマー』 過激化する組織犯罪に対抗するために警視庁と防衛省によって極秘裏に開発されたものの、あまりに絶大な力を危険視され、封印された特殊装甲スーツ「ポリマーシステム」。数年後、開発が再開されたものの、テスト版スーツが盗まれ、その力を悪用した犯罪が頻発する。それを奪還すべく召喚されたのが、オリジナル版である“紅きポリマースーツ”の封印をただひとり解ける男、鎧武士(溝端)。新米刑事の来間穣一(山田裕貴)と“自称・探偵助手”の南波テル(柳ゆり菜)を相棒に捜査が進むにつれ明らかになる、鎧の過去の秘密と世界を転覆させる巨大な陰謀とは――。 原作/タツノコプロ 出演/溝端淳平 山田裕貴 原幹恵 柳ゆり菜 監督/坂本浩一 ●5/13~全国ロードショー
撮影/古谷勝 ヘア&メイク/菅野綾香(ENISHI) スタイリスト/黒田領(ViVid)