12星座全体の運勢

「踊らにゃソンソン」

秋の気配が漂い始める「仲秋」へ入っていく直前の9月2日には、うお座で満月を迎えていきます。

初秋の風が吹くとされる9月1日から3日にかけて、富山県では毎年「おわら風の盆」という日本を代表するお祭りが催され、編み笠をかぶった人々が夜を徹して躍り続ける幻想的な光景が見られるのですが、その魅力は何と言っても、誰かに見せるためではない、純粋な自分の楽しみのための踊りである点にあります。

同様に、今回のうお座満月のテーマも「今を楽しむ」、すなわち、未来の払い戻しを夢見て無理を重ねつつ、今この瞬間のささやかな幸福を犠牲にし続けるのではなく、「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」くらいのゆるさで、あるがままに生きるモードへ入っていくことにあるのだと言えます。

そのためにも、今季はあまり大真面目になって特定の"実現すべき目標”や"あるべき理想”にはまり込んでしまうのではなく、まずは不意に流れてきた笛や太鼓の音(ね)に誘われて、フラフラと好き勝手に動いてみることから始めてみるといいでしょう。

蠍座(さそり座)

今期のさそり座のキーワードは、「狂うことくらいなんでもない」。

蠍座のイラスト
この『月と六ペンス』という小説は、主人公の「私」がひょんなことから40過ぎの冴えない画家と出会うところから始まります。彼はロンドンで何不自由ない生活を送っていたのに、ある日突然、失踪してしまいます。それは分かってみるとなんと、「絵を描く」ために何もかも捨てたというのです(ゴーギャンがモデルと言われている)。

彼は芸術のために人生ががたがたに狂ってしまってもまるでお構いなしなのですが、一体そうまでして、なぜ絵を描かなければいけないのか。

「彼が色や線に固有の価値を置いているのは間違いない。駆り立てられるようにして自分の感じたものを伝えようとしている。そのためだけに、独自の色彩や描線を創り出したのだ。追い求める未知の何かに近づくために、なんのためらいもなく対象を単純化し、歪めた。事実などどうでもいい。なぜなら身の回りにあふれる瑣末な事象の奥に、自分にとって意味があると思えるものを探し求めていたからだ。まるで、宇宙の魂に触れ、それを表現せざるを得なくなったかのように。」

そう、一度触れてしまったら、もう後には戻れなくなる。そんな体験が人生には確かにある。そして、素晴らしい芸術というのは、そこに深く魅入られた天才たちの、他のすべてを犠牲にせんとするほどの努力によって初めて成り立つものでもあります。

美とは、芸術家が世界の混沌から魂を傷だらけにして作り出す素晴らしいなにか、常人がみたこともないなにかなんだ。それもそうして生み出された美は万人にわかるものじゃない。美を理解するには、芸術家と同じように魂を傷つけ、世界の混沌をみつめなくてはならない。

作るのも、見るのも、生半可では許されない。ちょっとやそっと狂わされるだけではなく、自分から狂いに行くくらいでなければダメなのだ。おそらく、著者のサマセット・モームもまた、小説の世界でそうした狂気に親しんでいたのでしょう。

そして、今期のさそり座もまた、自分がこれはと思ったことなら何でもあれ、そのために狂うことくらいなんでもないのだという、この著者や画家の腹の括り具合を見習っていきたいところ。というのも、大方のさそり座であれば、狂気に陥るきっかけとは、ひょんなところでもう既に出会っているはずですから。


参考:サマセット・モーム、金原瑞人訳「月と六ペンス」(新潮文庫)
12星座占い<8/23~9/5>まとめはこちら
<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ