12星座全体の運勢

「白紙にかえす」

「暑さ寒さも彼岸まで」の秋分直前の9月17日に、おとめ座で新月を迎えていきます。

夏のにぎわいが遠のき、秋らしくなるにつれ、次第に風が透き通っていくように感じられてくる頃合いですが、そうした時に吹く風を昔から「色なき風」と呼んできました。

中国から伝わった五行説によると、秋の色は白。日本人は、その白を、「色無き」と言い換えた訳です。本来は華やかさがないという意味でしたが、言い換えられていくうちに、しみわたるような寂寥感を言い表すようになっていったのだそうです。

そして、今回のおとめ座新月のテーマは「初心に返る」。能の大成者である世阿弥の「初心忘るべからず」という言葉と共に知られる「初心」は、普通に考えられているような“最初の志”のことではなく、自分が未熟であった頃の“最初の試練や失敗”の意ですが、これは試練に圧倒されたり、失敗の前に膝をついたりしたことのない者には、本当の成功はいつまでもやってこないのだということを指します。

そうした失敗や挫折を不当だとか、相手や世間が悪いと思い込むのではなくて、そこから人間としての完成に近づくための新たな挑戦が始まるのだと気付くこともまた「初心」なのです。人生には幾つもの初心がある。そんなことに思い至ることができた時には、きっと心のなかをとびきりの「色なき風」が吹き抜けていくはず。

乙女座(おとめ座)

今期のおとめ座のキーワードは、「目標を立て直す」。

乙女座のイラスト
シュリーマン(1822~1890)は8歳の時に本で見たトロイア戦争の挿し絵に衝撃を受け、長年伝説や夢物語とされてきたトロイアが実在したと信じるようになり、大人になったら必ず遺跡を発掘するという大志を抱いてさまざまな職業を試しながら資金を貯め、見事51歳の時に夢を実現させたことでよく知られています。

彼は非常に先見の明ある人物であった一方で、自意識過剰な俗人であり、賞賛と悪評が混在する人物でもありましたが、少なくとも目的達成のために自己投資し続けた点に関しては驚嘆すべき偉人であることは間違いありませんし、実際、彼の著書は独学による効率的な勉強法やそのヒントの宝庫と言えます。

彼はトロイア発掘という大目標の手間に、資金調達という中目標を設定し、そのために仕事の合間にさまざまな語学の勉強に明け暮れていったのですが、その徹底ぶりは凄まじいものでした。

まず私は読みやすい筆跡を習得しようとして、ブリュッセルの有名な書家マネーに二十時間の授業をうけて、十分に目的を達した。つづいて、自分の地位をよくするために、熱心に近代語の学習をはじめた。私の年収(中略)のなかばを学習につかい、他の半分で私の生活費をまかなったのだが、どうにかやってゆけた

本書を読んでいると、勉強するうえで一番大切なことは、目的を明確にすることであることが痛感されてきます。シュリーマンは、趣味の勉強とは一線を画した「目的達成のための勉強」ということに可能な限りこだわり、文字通り全力を尽くしていったのです。

もちろん、いきなりシュリーマンと同じレベルの努力を実行することは難しいでしょう。けれど、目標を幾つかに分け、それらを完遂するために必要なことをきちんと洗い出し、嫌でもやらざるを得ない状況にみずからを持っていく彼の方法論を真似してみることなら、そう難しくないはず。

その意味で、自身の星座で新月を迎えていく今期のおとめ座もまた、いま自分がどこに向かって、何のために、いかにして日々の努力を積み重ねていくべきかということを、改めてゼロから描き直してみるには絶好のタイミングと言えるでしょう。


参考:ハインリヒ・シュリーマン、村田数之亮訳「古代への情熱」(岩波文庫)
12星座占い<9/6~9/19>まとめはこちら
<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ