12星座全体の運勢

「終わりと継承」 

8月23日には二十四節気の「処暑」に入り、朝夕に気候や虫の音に涼しさを感じる日も出てくるようになりますが、その直前である8月22日に水瓶座29度(数えで30度)で満月を迎えていきます。 

今回の満月のテーマは「はかなさ(無常さ)の受容」。歴史上どんなに強固で安泰に思えた文明や社会も、潮が満ちれば必ず引くように、栄枯盛衰をたどってきましたが、今期は個人においても社会においてもそうした「枯れ」や「衰え」の面が顕著に実感されていきやすいタイミングなのだと言えます。これは逆に言えば、いかに自身の生活や日本社会における奇妙な混乱状況をなかったことにせずに、自覚的に受け入れていけるかがテーマになっていくということでもあります。 

たとえば、日本では古来から蜉蝣(かげろう)が、成虫でいられる時間がわずか数時間から数日という短さゆえに、はかなさの象徴として歌に詠まれてきました。それは蜉蝣のきれいな透明な羽や、細長い体のいかにも弱弱しい印象も大きかったはずですが、名前の由来ともなった、日差しの強いに立ちのぼる「陽炎(かげろう)」のゆらめきを思わせるような飛び方がそれを決定づけたように思います。 

蜉蝣の成虫には口も消化管も退化してありません。何も飲まず食わずで飛び回って力尽きてしまいます。なぜそんなことをするのか。それはひとえに、交尾するため。飛び回れば異性に会えるから。もちろん、交尾しても結果的に死んでしまいますが、そうすることでDNAはちゃんと受け継がれていく。つまり、遺伝子の側から見れば死ではなく、そこで継承が起きている。 

さながら光が粒子であると同時に波でもあるように、蜉蝣という虫は確固とした個体であると同時に、それぞれが連綿と受け継がれていく遺伝子の中継地点でもある訳です。 

つまり、保身や自己利益の最大化をはかるのではなくて、どうしたら自身がその一部であるところの大きな全体へと貢献できるか、あるいは、自分がそこに身を投じ、続いていくべき潮流は何なのか。そうした実感が、否応なく膨れあがってきやすいのが今回の満月なのだということ。 

その中で、どんな自分事が終わりつつあり、その一方でどんな継承が起きつつあるのかということに、意識を向けてみるといいでしょう。 
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山羊座(やぎ座)

今期のやぎ座のキーワードは「ヴァニタス」。

山羊座のイラスト
16世紀から17世紀にかけてヨーロッパ北部で多く描かれた静物画のジャンルに「ヴァニタス」というものがあります。宮下規久郎の『モチーフで読む美術史』によれば、「ヴァニタス」とは、はラテン語で「空虚」「むなしさ」を意味する言葉で、中世以来の「メメント・モリ(死を想え)」という主題と同じく、「この世のものはすべて虚しく朽ちていく」という教訓として、寓意的な静物画のジャンルのひとつとして盛んに描かれたのだそうです。 
 
例えば、1651年に描かれたダーフィット・バイリーの「ヴァニタスのある自画像」。画中では、若い男が右手に絵を描くときに用いる画杖という道具を手にする一方で、左手を絵にかけています。男は画家自身なのですが、自画像を描いたとき、すでにバイリーは67歳でした。 
 
すなわち、自画像のなかの若い男は、自身の約40年前の姿であり、さらに男が左手で支えている小さな楕円形の画面には、十年ほど前に描いた自画像がはめられています。つまり、ここには若いころの自分と、すこし前の自分の姿が描かれており、それらを描いた現在のバイリーの姿はありません。 
 
バイリーの自画像においても、若い男が腰かけているテーブルの上には、髑髏とともに宝飾類やコイン、消えた蝋燭、花、楽器、ひっくり返った杯などが、所せましと並べられ、さらには空中に二つの大小のシャボン玉が浮かんでいます。 
 
透明で美しいが、すぐにはかなく消えるシャボン玉は、ヴァニタスにふさわしいモチーフとしてさかんに描かれた」 
 
そしてその脇で、若い男は自身もやがて老いて死にゆくことを悟り、やがて自身の元にも訪れるであろう定めを予見しているのです。 
 
同様に、今期のやぎ座もまた、もしいま自分の自画像を描くとすれば、自身の傍らにどんなモチーフや品々を置くだろうか、そして死にゆく時の自分はいったいどんな顔や風貌をしているのかと、ひと通り思案を巡らせてみるといいかも知れません。 


参考:宮下規久郎『モチーフで読む美術史』(ちくま文庫)
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ