12星座全体の運勢

「主観の結晶化」 

昼と夜の長さが等しくなる「秋分」を2日後にひかえた9月21日には、うお座28度(数えで29度)で満月が形成されていきます。

そんな今回の満月のテーマは、「画竜点睛」。すなわち、物事を完成させるための最後の仕上げの意。前回の記事の中では、9月7日のおとめ座新月から21日のうお座満月までの期間は「かつて否定した自分自身(の実感や衝動)との和解」ということがテーマになると書きましたが、それは以前なら単なる主観でしかないとして切り捨てていた個人的な思いや直感が改めて検証され、そこには顧みるべき何らかの意味や価値があるのではないかといった“読み解き”が促されていきやすいという意味でした。

つまり、先の「仕上げ」とは、権威や影響力があるとは言えど誰か他の人の意見や考えや根拠をうのみにするのではなく、あくまでみずからの主観的な確信を熟慮のうえで結晶化していくことに他ならないのだということです。

例えば、藤原定家の「見渡せば花ももみじもなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ」という有名な歌があります。浜辺であたりを見まわしてみても何もないという意味で、表向きには何にもない景観です。そもそも、花は春、紅葉は秋ですから、同時に観れる訳がない。ただ、「ない」とあえて否定することで、うっすらとその痕跡が重層的にイメージされ、その上に実際の「秋の夕暮れ」が見えてくると、もはやそれはただのさびしい風景ではなく、心的空間における仮想現実体験のような積極的なニュアンスをもつまでに至るのです。無駄を省いて、一つだけ残ったものとしての秋の夕暮れ。何でもないような一日をあらんかぎりの高度な手法をもって大切に締めくくるという意味で、実に今回のテーマに即した作品と言えるのではないでしょうか。

同様に、今期は他の人が何と言おうとも、自分にとってこれだけは大切な体験・体感なのだということを、手を尽くして結晶化してみるといいでしょう。
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双子座(ふたご座)

今期のふたご座のキーワードは、「肉を斬らせて骨を断つ」。

ふたご座のイラスト
1963年2月から3月にかけ、『ニューヨーカー』誌に連載され、その後アメリカの出版社から刊行されたハンナ・アーレントの『イェルサレムのアイヒマン』は、元ナチスの戦犯で、ユダヤ人撲滅作戦において数百万人におよぶ強制収容所への移送を指揮したアイヒマンの裁判をみずから傍聴し、膨大な関連資料を読み込んだ上で書き上げたルポルタージュでした。 
 
しかし、本書は発表直後から欧米のユダヤ人社会を中心に大きな議論を呼び、その後一連の激しい著者個人への非難キャンペーンの端緒となったいわくつきの仕事であり、その際「しばしばほとんど嘲弄的で悪意ある」と非難されたのが自身もユダヤ人であるはずの彼女の語り口でした。 
 
それは資料によりながら、淡々と叙述を重ねていく一方で、「アイヒマンの味方なのか」という評まで生んだほどに、ときにアイヒマンに非常に深くコミットし、可能な限りアイヒマンに沿って物事を理解しようと試みるかのような記述があったり、悲劇的状況に置かれた「同胞」への同情に欠ける『ニューヨーカー』誌にふさわしい硬質でしゃれた文体や、皮肉と風刺をまじえた乾いた語調からなっていたのです。 
 
なぜ彼女は内容に工夫を凝らす代わりに、そうした語り口をあえて選び、訴えたのでしょうか。文芸批評家の加藤典洋は『敗戦後論』に収録された「語り口の問題」の中で、「わたしの考えをいえば、アーレントはこの裁判を、第三者として、それこそ冷静に、ルポルタージュしぬこう、そのことができれば、それはそれだけでなにごとかだ、と考えて」いたのだとした上で、次のよう述べてみせました。 
 
共同性を殺すには共同性の単位である「私」の場所から、裏の闇である私となって語るしかない。私の語る言葉とは何か。私性はprivé 世界から奪われた存在にほかならない。私は言葉を奪われている。私に残されているのは語り口なのである。」 
 
ここで言う「共同性」とは、「この裁判を全世界の人間にもう一度ユダヤ人絶滅の悲劇の事実を知らしめ、頭を垂れさせる教訓劇に」しようとするイスラエル、ユダヤ人社会の意向を宿した検事の語り口であり、彼女の語り口はそこから完全に欠落しているものを引き受けたものだったのではないか、と。 
 
今期のふたご座もまた、強いられた共同性から脱け出すための方途としての「語り口」ということをひとつ考えてみるといいかも知れません。 


参考:加藤典洋『敗戦後論』(ちくま学芸文庫) 
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ