12星座全体の運勢

「記憶の「虫だし」」 

土の中にあたたかい気配が届き、それを感じた虫たちが穴の中から這い出してくる「啓蟄」直前である3月3日に、うお座12度(数えで13度)で新月を迎えていきます。 

「非現実的で、過度な理想主義」や「既存世界の<外部>への遁走」を意味する木星と海王星の組み合わせのすぐそばで形成される今回の新月のテーマは、「負の記憶の解消」。 

桃の花がほころびはじめ、青虫が蝶に変身して夢見るように見え始める3月はじめの新月は、新しいサイクルの本格的な始まりというよりは、これまでのサイクルのなかに取り残されたままのわだかまりや怨念をきちんと鎮めていくことにあります。 

昔の人は、蛇やカエルやトカゲなど、小さな生物はみな「虫」と呼び、この時期になる雷の音におどろいて虫たちが這い出してくるものと考えて、春の雷を「虫だし」と名付けていましたが、逆に言えば、寒さに耐えて地中でちぢこまっている虫が残っている限りは、まだすべての生命が喜びとともに祝う春ではなかった訳です。 

その意味で、今回のうお座新月は、きたる春分(新しい一年の始まり)に向けて、自分だけでなく周囲のみなが忘れかけている記憶や歴史の業を解消していく霊的な働きに、いかに自分を一致させていくことができるかどうかが問われていくことになるでしょう。 
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射手座(いて座)

今期のいて座のキーワードは、「維摩の一黙」。

射手座のイラスト
私たちはSNSであれLINEであれ、日々何かというと言葉に囚われていますし、言葉がそのまま事実であると錯覚してしまうところがあります。もちろん言葉は言葉としてきわめて大切なものであることには違いはないのですが、言説はそのまま事実の表示であって事実そのものではないということは、情報化社会が極相に達してきた感さえある今の時代にあって、いくら強調しても強調しすぎるということはないでしょう。 
 
いつまでも空虚な言葉の上っ面をツルツルと滑り続けているのではなく、言葉の行き着く先をきちんと把握し、それと一体化することを大切にする。そんなことを考えるとき、どうしても思い出されてくるのは『維摩経』の「維摩の一黙」の場面です。 
 
在家者である維摩というじいさんが、出家者である並みいる菩薩たちを相手に議論を交わし、次々とやりこめていくという、きわめてアナーキーかつ異色の大乗仏教経典である『維摩経』は、「どうすれば“不二の法門”すなわち悟りの世界に入れるのか?」という問いかけに三十人以上の菩薩が答え終わったあたりからクライマックスに入ります。 
 
最後に維摩から答えを求められたのは智慧の象徴として知られる文殊菩薩は、「私の考えでは、すべての存在や減少において、言葉も思考も認識も問いも答えも、すべてから離れること、それが不二の法門に入ることだと思います」と述べたあと、逆に維摩に意見を求めます。 
 
周りにいたあらゆる菩薩たちが維摩の回答を固唾をのんで待ち、場の緊張が一気に高まったそのとき、維摩はついぞ黙して一言も言葉を発しなかったのです。「維摩の一黙、雷の如し」と称えられたこの場面について、禅学者の鈴木大拙は次のように述べています。 
 
普通には維摩の一黙をその黙のところに解すのであるが、自分の考へではさうでない。この一黙は、不言不説ではなくて、凝然不動でなくてはならぬ。黙を言説の上に見ようとするのは浅い。印度流である黙のうちに維摩その人を見なくてはならぬ。黙の中に維摩は跳ってゐるのである。」 
 
つまり、これはただ維摩の外に沈黙が広がったのではなく、どこまでも維摩は黙と一体化していて、その存在全体に言葉では言い現わすことのできない真実が貫徹していたということでしょう。

今期のいて座もまた、何かと言葉をもてあそんでは逆に言葉に振り回されてしまう傾向から脱するべく、そんな「維摩の一黙」をひとつの指針にしてみるべし。 
 
 
参考:鈴木大拙『鈴木大拙全集〈第15巻〉』(岩波書店) 
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<プロフィール>
慶應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ