1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。

そして多様性社会を生きる今、「モア・リポート」と並行して性別を問わずジェンダーレスに20・30代の体験談を取材し、彼らの恋愛やセックスの本音に迫る「モア・ボイス」の連載をお届けします!

セックスも恋愛感情もナシ。「友情結婚」をしたカップル

୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

ーDATAー

三井ケイトさん(仮名)・メイさん(仮名) 

ともに 年齢:30代 職業:会社員

୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

三井ケイトさんとメイさん(ともに仮名・30代)は掲示板を通じて出会い、恋愛感情やセックスをともなわない通称「友情結婚」をした。ふたりの出会いから友情結婚にいたるまでを取材した。

父親から「結婚しろ」「孫の顔が見たい」の声

友情結婚って何?「恋愛もセックスもなし。の画像_1

――おふたりは友情結婚をしたのですか?

三井ケイトさん:2021年に「友情結婚」というかたちで籍を入れました。現在は1歳の子どもを育てています。(以下、ケイトに省略)



――友情結婚とはどのような結婚のかたちを指すのでしょうか?

ケイト:人によってさまざまな考え方があるようですが、僕たちは「お互いに恋愛感情や性的欲求を持たない結婚」という共通認識を持っています。

三井メイさん:私たちの関係性に恋愛感情とセックスがない以外は、普通の夫婦生活を送っていますね。(以下、メイに省略)



――おふたりはなぜ友情結婚しようと思ったのですか?

ケイト:僕は、女性に恋愛感情を抱くけれど、女性と性行為をしたいと思わないセクシュアリティです。これまで性的指向を秘密にして女性とおつきあいしてきましたが、セックスができず、修羅場の末に何度も別れを経験しました。

過去の経験から結婚せずに生きていこうと思っていたのですが、30歳になった頃に父親から「そろそろ孫の顔が見たい」と言われたんです。



――父親から結婚に対するプレッシャーがあったのですね。

ケイト:はい。父親は「男は結婚して一人前」という価値観を持っていました父親だけでなく、僕が勤めている会社にもその風潮があります。世間体もあるし、しぶしぶ結婚を考え始めたものの、子どもをつくるための性行為はできないし……と、悶々としながらネットを見ていた時、「友情結婚」という言葉を知ったんです。

ドラマで知った恋愛感情・セックスなしの結婚の形

友情結婚って何?「恋愛もセックスもなし。の画像_2

――ケイトさんは父親の結婚への圧がきっかけで友情結婚にたどり着いたのですね。メイさんはどうですか?

メイ:私もケイトと同じで、親が結婚しろとうるさかったのが一番大きな理由ですね。私は20歳の頃から母に結婚しろと言われてきました。



――20歳! そんなに早くからですか?

メイ:はい。私の母はいわゆる“毒親”というやつです。母は「結婚して子どもを持つのが、女の幸せ」という価値観を持っていました。私がひとりっ子だったこともあり、母親は私の結婚と出産に大きな期待を持っていたようです。現在は地元を離れているのですが、帰省するたびに「結婚はまだ?」としつこく聞かれました。




――ケイトさん同様に、メイさんも親からの期待があったのですね。

メイ:そうですね。私もケイトも親が田舎に住んでいるので、なおさらその傾向は強いような気がします。私はよっぽど信頼をおいている相手でないと恋愛感情も性的欲求も抱かないセクシュアリティを自認しています。
男性に対しての嫌悪感はありませんでしたが、セックスには嫌悪感がありました。妊娠やそのほかのリスクをおかしてまでセックスをしたいとは思えないんです。



――結婚以前に、男性に対して恋愛感情や性的欲求を抱くことがなかったのですね。

メイ:そうですね。だけど母親からの結婚へのプレッシャーは増すばかりでした。



――親に自身のセクシャリティについて話すことはしませんでしたか? 

メイ:話すことにより、もっと面倒になると思ったのでしていません。どうにかして恋愛や性行為をせずに結婚する方法を考えました。そのとき、テレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』を知ったんです。




――『逃げるは恥だが役に立つ』は、“契約結婚”がテーマでしたね。

メイ:「恋愛ナシ、セックスナシの結婚、いいじゃん!」と共感しました。ドラマでは最終的に夫婦間に恋愛感情が芽生えますが、私は異性に対して恋愛感情や性的欲求が芽生えることはありません。さらに調べていたところ、友情結婚というワードにたどりつきました。

友情結婚相手募集の掲示板で出会う

友情結婚って何?「恋愛もセックスもなし。の画像_3

――その後、おふたりはどのようにして出会ったのですか?

ケイト:2016年ごろ、友情結婚したい人を募集する掲示板を見つけました。掲示板のほかに、友情結婚専門の相談所やSNSもありましたが、相談所はお金がかかるし、SNSで検索してもあまりいいなと思える人はいませんでした。
それで掲示板に自身の性的指向・結婚に求めるもの・連絡先を載せることにしたんです。僕の投稿を見たメイがメールをくれました。



――メイさんもその掲示板を見ていたのですね。

メイ:私はケイトみたいに結婚相手を探してというより、とりあえず“友情結婚”と検索して一番上に出てきた掲示板を軽い気持ちでクリックした感じですね。どんな書き込みがあるのか、最初は興味本位でした。

今私が住んでいる場所が田舎なので、同じ地域の人はいないと思っていたのですが、ケイトの書き込みを見つけ、話を聞いてみたくて、メールを送ったんです。

後編を読む。友情結婚って何? 自分らしい幸せを見つけた30代夫婦「親も会社も独身に対しての風当たりが強い」

取材・文/毒島サチコ

ライター・インタビュアー
毒島サチコ

MORE世代の体験談を取材した「モア・リポート」担当のライター・インタビュアー。

現代を生きる女性のリアルな恋愛観やその背景にひそむ社会的な問題など、多角的な視点から“恋愛”を考察する。