友情結婚って何? 自分らしい幸せを見つけた30代夫婦「親も会社も独身に対して風当たりが強い」 【モア・ボイス21・後編】
2023年「モア・リポート」と並行して、性別を問わずジェンダーレスに20・30代の体験談を取材し、彼らの恋愛やセックスの本音に迫る「モア・ボイス」の連載。今回のテーマは、友情結婚について。
セックスも恋愛感情もナシ。「友情結婚」をしたカップル
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ーDATAー
三井ケイトさん(仮名)・メイさん(仮名)
年齢:30代 職業:会社員
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三井ケイトさんとメイさん(ともに仮名・30代)は、恋愛感情やセックスをともなわない「友情結婚」をし、1歳の子どもを育てている。ふたりはどのように出会い、結婚するにいたったのか。現在結婚3年目になるふたりに、友情結婚の本音を聞いた。
掲示板で友情結婚相手を探した
――ふたりの出会いについて伺えますか?
三井ケイトさん:友情結婚できる相手を探していたところ、友情結婚したい人を募集する掲示板を見つけました。掲示板に自身の性的指向・結婚に求めるもの・連絡先を載せることにしたんです。投稿を見たメイがメールをくれました。(以下、ケイトに省略)
――メイさんはなぜケイトさんにメールを送ったのですか?
三井メイさん:私はケイトみたいに結婚相手を探してというよりも、「友情結婚」と検索した時に一番上に出てきた掲示板を軽い気持ちでクリックして、メールした感じですね。田舎に住んでいるため、同じ地域の人はいないと思っていたのですが、ケイトを見つけました。返事はあまり期待していなかったので捨てアドを使いましたが、思いのほか早く返信がきて驚きました。(以下、メイに省略)
――ケイトさんはメイさんからメールがきた時、どう思いましたか?
ケイト:すでに何人かとやりとりをしていたので、「また新しい人からメールがきた!」と喜びました。メイとやりとりを続けていく中で、僕たちが結婚したい理由が“親絡み”で共通していることに気付いたんです。
結婚したい理由が同じだった
――結婚したい理由が同じだったのですね。
ケイト:はい。結婚に対して前向きに話してみたいなと思い、一度会ってみようとなりました。
――メイさんも最初から結婚を意識していたのですか?
メイ:私のほうはすぐ結婚したいという気持ちはそこまで強くなかったのですが、いい人だったら結婚を考えたいと思っていました。
――実際会ってみてどうでしたか?
ケイト:メールの段階で、お互いのセクシュアリティの話をしていたこともあって、最初から打ち解けることができました。その日のうちにお互いの結婚観のすりあわせをしましたね。
――具体的にどのようなことについて、すりあわせをしたのでしょうか?
ケイト:なぜ結婚したいのか、いつまでに結婚したいか、いずれ地元に帰る予定はあるのか、子どもの有無、同居か別居か、というところです。お互いの条件が一致していたこともあり、結婚を前提に会うようになりました。それから2年後に入籍をしました。
――セックスをしない「友情結婚」において、子どもの有無はどのような意見で一致されたのでしょうか?
ケイト:ふたりとも子どもは「できればほしい」という結論になりました。ドライな言い方になりますが、結婚は「早く結婚しなさい」という親の圧を避けるため、子どもは「早く子どもを作れ」という親の圧を避けるため、といった側面がありました。
もちろん、子どもを授かったら愛情を持って育てようと思っていました。だけど、単純に「子どもがほしい」という理由だけではないのが本音です。
――現在おふたりにはお子さんがいますが、どのようにして授かったのでしょうか?
ケイト:何度かセックスしてみようかと考えたのですが、お互い「やっぱり無理!」となり、シリンジ法で妊活をして妊娠しました(※シリンジ法:針のない注射器のようなもの(シリンジ)を用いて精液を採取し、女性の膣内に注入する妊活方法)。
友情結婚のカタチとこれから
――おふたりが友情結婚をしていることを知っている人はいますか?
ケイト:いいえ、ふたりとも誰にも言っていません。だから知り合いに「(恋愛的に)奥さんのどんなところが好きなの~?」と聞かれると、困りますね。
僕たちは寝室が別なんですけど、先日寝室が別だと言ったら驚かれたんです。「そりゃそうか~」と思い、今は寝室が別である理由を考え中です。周囲には、“普通の結婚”であるフリをしているので、どうしても嘘をつかなきゃいけない。それが友情結婚のデメリットですね。
――逆に友情結婚のいいところ(メリット)はなんですか?
メイ:恋愛関係とセックスがない分、それにかかる精神的ストレスが一切ないのが大きなメリットです。あとはやっぱり母親に「まだ結婚しないの?」と言われなくなったこと。一番のメリットはそれじゃないかな。
――ケイトさんはどうですか?
ケイト:僕の方も親や会社を含めた世間体のための結婚、というのが大きな理由です。職業的に独身男性に対して風当たりが強く、今どき珍しい昭和的な考えの会社なんですよ。現在は親元を離れて暮らしているものの、僕たちが今住んでいる場所も、親の住む地元も結構な田舎なので、都会と比べると周囲の考え方が古いこともあるかもしれません。周囲から「結婚して子どもを持つのが幸せ」と何度も言われてきました。僕たちはそれを達成し、とやかく言われない今の生活は幸せです。
――もし親や周囲からの「結婚しろ」のプレッシャーがなかったら、おふたりの結婚はどうなっていたと思いますか?
ケイト:僕は結婚はせず、今の会社を辞めていたと思います。今さら人と恋愛やセックスをしようとも思わないので、ひとりを楽しみながら暮らしていたでしょうね。
――会社を辞めるのはなぜですか?
ケイト:今の職種だと、どこに行っても独身男性への風当たりが強いんです。数年ごとに職場を変えるか、全く違う仕事に就いていたかもしれません。
――メイさんはどうでしょうか?
メイ:母親からのプレッシャーがなかったら「友情結婚」という言葉にたどりつかなかったし、そもそも結婚を考えていなかったと思います。
仕事が好きで、お金を貯めて友人たちとあちこち旅行するのが趣味だったので、バリバリ働いてそんな生活を続けていたかもしれません。職場では周りに年上の独身女性の方も多くて、ロールモデルはたくさんいます。結婚や恋愛をしていないことに不安は感じつつも、無理をしてまですることはないと考えていたんじゃないかな。
――最後に、おふたりが考える理想の“結婚”の形を教えてください。
ケイト:おいしいものやお互い興味のあることは一緒に楽しみながらも、ひとりの時間もしっかり楽しむ。個人を尊重する生き方ができたらいいなと思っています。
メイ:私は30代を迎えて、母親からのプレッシャーに加え、今後ひとりで生きていくのに漠然とした不安を感じた時に「友情結婚」という言葉を知りました。その時「これだ!」と思ったのを覚えています。今の私たちの夫婦関係は家族だけど近すぎない“仲の良い、いとこ”って感じで理想的です。
取材・文/毒島サチコ