1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、2017年までに延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。

そして、恋愛やセックスがいっそう多様化している現在。20代、30代の体験談を取材した新「モア・リポート」をお届けします!

「〇〇くんママ」と呼ばれるようになった30代

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ーDATAー

正井さん(仮名)32歳 / 職業:会社員(育休中)

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正井さんは、自身に3つの肩書があると語る。母である自分、夫のパートナー(妻)である自分、そして元の自分。ライフスタイルとともに変化する“自分自身”についての葛藤を語ってくれた。

30代。自分の名前がわからなくなる時がある

母親になって感じた幸せと寂しさ「〇〇くんの画像_1

――正井さんは時々自分の名前がわからなくなるそうですが、どうしてでしょうか?

私は一昨年出産し、母になりました。母になったことで、自分の肩書が増えて、たまに自分の名前を忘れそうになることがあります。(以下同、正井さん)




――自分の肩書が増えた、とは具体的にどういうことですか?

母である自分、夫のパートナー(妻)である自分、そして元の自分、です。

3年前に結婚し、苗字が夫のものに変わりました。新しい苗字に慣れないうちに次は母に。すると今度は、周囲から「〇〇くん(子どもの名前)のお母さん」と呼ばれるようになりました。




――「元の自分」とは、結婚前の正井さん自身でしょうか?

そうですね。独身だった頃の私です。結婚や子どもを出産して、幸せを感じる日々です。だけど、それと同じくらい変化についていけない自分もいます。





――「変化についていけない」とは、具体的にどのようなことでしょうか?

結婚後の手続きを行う時、旧姓を書いてしまったりすることが多々ありました。子どもが産まれてからも、子どもの病院で自分の名前を書いてしまったこともあります(笑)。妻や母親になったのに、ひょんな瞬間に昔の自分が顔を出すというか。





――昔はどんな自分でしたか?

全部自分のため! みたいな、ワガママに生きていたと思います。30代になって結婚し出産すると、家族のために行動することが多くなりました。

だから昔の自分が出てくると、どこかで罪悪感みたいな感情を持ってしまう時があるんです。

「母親としての自分」を感じる幸せと同時に感じる寂しさ

母親になって感じた幸せと寂しさ「〇〇くんの画像_2

――昔の自分はどんな時に出てきますか?

たとえば、20代の時は自分の身なりを気にしておしゃれを楽しんでいたのですが、母親になってからはそういう自分の時間を取ることは難しい。デートをしているカップルや、仕事や趣味にまい進している友人のSNSを見ると、昔の自分を重ねて「あぁ、うらやましいな」と思ってしまうことがあります。




――昔の自分のような状況をうらやましいと思った時、罪悪感を感じるのでしょうか?

そうですね。もちろんそれは「結婚し、母親にならないほうがよかった」ということではありません。子育ては大変だけど、子どもは可愛いし幸せです。

だけど、やっぱり“自分”を謳歌している人を見ると、「うらやましいな」という気持ちがむくむく湧いてきます。「もうあの時には戻れないなぁ」という寂しさもありますね。
そう思ってしまうこと自体に罪悪感を感じるんです。私、母親になりきれていないなぁって。私の思い描く母親って、もっと迷うことなく母親をしているんだよなぁ、って。


そういうシーンは生活をしていると多々あるんです。

「〇〇くんママ」と呼ばれるようになって

母親になって感じた幸せと寂しさ「〇〇くんの画像_3

――それは、ほかにどのようなシーンで感じますか?

一番感じるのは、子育て支援センターや児童館でのママ友との関係です。子どものための場所なんだからしょうがないんだけど、仲良くなったママ友には「〇〇くんママ」って呼ばれるようになりました。

たぶん、そのママ友たちは私の苗字も名前も知らないと思います。私も同じように「〇〇くん・ちゃんママ」と呼んでいますし、子どもありきの関係だから仕方ないと思っても、なんだか少し違和感があります。





――「母である自分」の呼び名に違和感があるということでしょうか?

そうです。そんな小さなことに違和感を感じる自分に対しても、母になりきれてなくてダメだなぁと罪悪感がありますね。

先日、子どもをベビーシッターにあずけて、伸ばしっぱなしだった髪を明るく染めて、結婚前ぶりにボブにカットしたんです。そしたら同世代の子育て中の友人に「ママなのにきれいにしていて偉いね」と言われました。
「ママなのに」という言葉に、嬉しいような、寂しいような、なんだか少し責められているような、そんな気持ちを覚えました。




――今の生活の中では、「母である自分」の割合が高いということでしょうか?

ほぼワンオペでの子育て生活の中では、圧倒的にそうですね。現在育休中で来年復帰予定です。そうしたらまた割合は変わってくるのかな。

何度も言うけど、母親にならなければよかったということではないんですよ。母親になってよかった! だけどこの「母である自分」に対する違和感をなんて言葉にしたらいいかわからないし、打ち明けるところもないので、ちょっと話してみたかったんです。

取材・文/毒島サチコ

ライター・インタビュアー
毒島サチコ

MORE世代の体験談を取材した「モア・リポート」担当のライター・インタビュアー。

現代を生きる女性のリアルな恋愛観やその背景にひそむ社会的な問題など、多角的な視点から“恋愛”を考察する。