2021年にSpotifyの「RADAR:Early Noise 2021」に選出。4月に1stアルバム『odds and ends』をリリースし、6月には東京・Zepp Tokyoで初のワンマンライブを成功させるなど、大きな注目を集めている女性アーティスト、にしな。この秋も「夜になって」、「debbie」(11/19公開映画『ずっと独身でいるつもり?』主題歌)などの話題曲を次々とリリースしている彼女に、音楽活動のスタンスの変化、新曲の制作エピソード、曲作りに煮詰まった時のリラックス法などについて聞きました。
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にしな●Spotifyがその年に注目する次世代アーティスト応援プログラム「RADAR:Early Noise」の2021年版に選出。2021年4月、1stアルバム『odds and ends』をリリース。やさしくも儚く中毒性のある声、どこか懐かしくまどろむ様に心地よいメロディーライン、無邪気にはしゃぎながら繊細に紡がれる言葉のセンスが注目を集めている。

1stアルバム『odds and ends』や初のワンマンライブを経て

――2021年4月に1stアルバム『odds and ends』をリリース。その後もドラマの主題歌(ドラマ『お耳に合いましたら。』のエンディング主題歌「東京マーブル」)を手がけるなど、活動の幅がどんどん広がっています。にしなさん自身の音楽活動に対する意識にも変化があったのでは?

にしな「そこまで変わってないというか(笑)、今までどおりのペースでやらせてもらっています。でも、曲作りに関しては、少しずつ広がっている気がしますね。たとえば(ドラマ、映画などの)タイアップ曲を書き下ろす時は、『作品と楽曲を生かし合うにはどうしたらいいだろう?』『あまり細かく描きすぎると、当てはまるシーンが狭くなっちゃうかな』と考えたり。これまでは自分と相手との関係性だったり、ミニマムな捉え方をすることが多かったので、そこは変わってきた部分だと思います」

――6月に開催した初のワンマンライブはどうでした?

にしな「純粋に嬉しかったですね。ステージに立つ前は緊張していたんですよ。今までは弾き語りがほとんどで、バンド形式でライブをやることが少なかったから、『大丈夫かな?』っていう不安もあって。でも、ライブがはじまったらすごく楽しめて、『次のステップに進みたいな』と思えたんですね。もっと大きい会場でもやってみたいし、いろんな楽しみ方ができたらいいなと。とにかく『私、ちゃんとやれるんだ』と思えたことが大きかったです」

「夜になって」にまつわる“想い出”と“思い”

――素晴らしいですね。では、新曲についても聞かせてください。まず10月にリリースされた「夜になって」は、にしなさんがデビュー前から大切に温めていた曲だとか。

にしな「曲を書いたのは20才くらいの時です。当時、好きだった人との会話の流れで、同性愛だったり異性愛だったり、いろんな愛の形について話したことがあって。その時相手の人が『同性愛は染色体のバグらしいよ』って言ったんです。その表現の仕方がイヤだなと思って。そのことを伝えて、わかり合いたかったんだけど、上手く言えなかったんですよね。その後ひとりで考えた時に『やっぱり言葉にしてみたい』と思って。それが「夜になって」を書くきっかけだったんです」

――自分の考えをまとめて、相手に伝える手段が歌だったのかも。曲にすることで、にしなさん自身の気持ちも整理できた?

にしな「はっきりした答えは出せなかったんですけど、『好きな人を好きだと思い続けたいし、大切にしたい』って、より強く思えたのかな。ライブでも弾き語りで歌ってきたんですが、歌うたびにその時のことを思い出しますね」

――夜の雰囲気が感じられる、ちょっと官能的なサウンドも印象的でした。耳あたりがすごく気持ちいいですね。

にしな「ありがとうございます。アレンジャーの方にお願いする時に、自分が大切にしている世界観や雰囲気をお伝えしているんですけど、音楽的なことはあまり言えなくて(笑)。それよりも『赤と青が混ざって、だんだん黒になっていく』とか『湿度が高い感じにしてほしいです』みたいな話をして、それを汲み取ってもらいながら作っているんです。「夜になって」は、最初のアレンジの時から思い描いていたイメージにぴったりで嬉しかったですね」

田中みな実主演映画『ずっと独身でいるつもり?』の主題歌「debbie」

――そして11月17日には、「debbie」をリリース。田中みな実さんが主演の映画『ずっと独身でいるつもり?』の主題歌ですね。

にしな「もともとは主題歌の話をいただく前から制作していた曲なんです。コロナ禍になって思ったような活動ができずに苦しんでいた時に、何かのきっかけでジャズ・ピアニストのビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』を聴いて。調べてみたら、ビル・エヴァンスは制作に苦しんだ時期があるんですよね。それでも音楽をやり続けて、落ちそうになっても、光やピュアさを大切にしてきて。比べたわけではないけど、私も同じような状況だなと思ったし、『今の気持ちを曲にしておこう』と思って」

――苦しんでいた時に書いた曲が、映画『ずっと独身でいるつもり?』にも合っていたんでしょうね。

にしな「そうかも。全然違うテーマで作ったんですけど、みなさんに『すごく合ってる』と言ってもらえて。エンドロールで『debbie』が流れた時に、“こういうふうに聴こえるんだ”という発見があったんです。自分の孤独と向き合いながら書いた曲なので、(映画の世界観やストーリーと)つながったのかなって」

――映画『ずっと独身でいるつもり?』は、それぞれに生きづらさを抱えた4人の女性を描いた作品。にしなさん自身も共感できるところがありました?

にしな「登場人物の生き方はそれぞれ違うんですけど、『わかる!』というところは多かったです。迷ったり、悩んだりしながら、それでも自分の意思を大切にして人生を選ぶ姿にも励まされましたね」
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ずっと記憶に残っている、初ライブでの出来事

――「debbie」の歌詞は、映画に影響されて書かれたそうですね。言いたいことをまっすぐ伝えるだけが正義ではなくて、ウソをついてもいいから、自分の気持ちを包み込むように花を咲かせたいという。

にしな「私自身、思ったことをそのまま言い返すタイプではないんですよ。お互いを知った後はいろいろ言うし、めっちゃ面倒くさい人だと思うんだけど(笑)、普段はそうじゃなくて、自分の気持ちを抑えてやりすごすこともあって。歌詞には、私のこともかなり入ってますね」

――なるほど。アーティスト活動のなかで、自分の意見をはっきり言わないといけない場面はないですか?

にしな「曲のことに関しては言いますし、『こうしたいです』というアイデアも伝えるようにしてます。でも、たとえばMVを作る時は、意見を言うのを控えることもありますね。私の作品でもあると同時に、相手(MVを手がける映像作家)の作品でもあるので。まあ、わりとウジウジしたタイプではあるんですけどね(笑)。どうしても考えすぎちゃうというか」

――そうなんですね! 凛とした歌声の印象からかもしれませんが、はっきり自分の意見を言うタイプなのかと。

にしな「全然です(笑)。そういえばずっと記憶に残ってる出来事があって。初めてライブをやった時に、お客さんに『音楽は早くやめてお嫁さんになったら?』って言われたんですよ」

――ええっ?!

にしな「私もすごくイヤでしたけど、チケットを買って観に来てくれたお客さんだし『またまた~』ってやり過ごしちゃったんです。でもすごく悔しくて……。そんなことを言われないようにがんばろうという気持ちにもなりましたね」

――強いですね! にしなさんには、理想の結婚像ってありますか?

にしな「自分をさらけ出せる場所であったらいいなと思います。人に伝えたほうがいい部分、伝えないほうがいい部分があると思うんですけど、(結婚相手は)さらけ出せる人がいいし、相手もそうであってほしくて。そういうふたりが支え合いながら一緒にいられたら理想の結婚なのかなと。楽曲に対しても、同じような感じがあるんですけどね」

――楽曲は自分自身をさらけ出せる場所でもある?

にしな「特に曲を書き始めた時は、そういう意識がありました。作詞・作曲をはじめたのは高校生の時なんですけど、最初は暗い曲が多かったんです。自分の暗い部分って、普段はあまり見せないじゃないですか。でも、どこかに『この気持ちを吐露したい』という部分もあったし、それが曲になっていたのかなって。“自分を出せる場所”という感覚はいまだにありますね」

制作のこと、最近のこと

――順調にリリースが続いていますが、今も制作は続いているんですか?

にしな「やってます。ポンポン作れるタイプではないので、『作れそうな時にやろう』という意識があるんですよ」

――なかなか思うように曲ができない時も?

にしな「しょっちゅうです(笑)。どうしても作れない時は、どなたかとご一緒してアイデアをもらうようにしてますね」

――気分転換したい時はどうしてますか?

にしな「どうしてるのかな……。そういえばこの前、撮影で北海道に行ったんですよ。岬を巡ったんですけど、ドライブっていいなと思いました。窓を開けて、風に当たってるうちにイヤなこともなくなる気がして。私はペーパードライバーなんですけどね(笑)」

――ドラマや映画を鑑賞するなどは?

にしな「観ますよ。最近、配信ドラマの『イカゲーム』を観始めました。あとは人に勧められた映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』とか。映画『31年目の夫婦げんか』もおもしろかったです!」

最新作品情報

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配信シングル「debbie」
●2021年11月17日配信
ワーナーミュージック・ジャパン
https://nishina.lnk.to/debbie

Official Site
https://wmg.jp/nishina/
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夜になって / にしな【Music Video】
取材・文/森 朋之 撮影/石田真澄 ヘア&メイク/山口恵理子 スタイリスト/石谷 衣 編集/小松香里