先日、エッセイ集『ぜんぶ 愛。』を上梓した映画監督の安藤桃子さん。本作では、コンプレックスに悩んだ思春期にロンドン留学したことから、30代を迎えて高知に直感的に移住を決めた話、さらには、子育て、映画や生活の話……etc. 自身の半生を振り返りながら、人生で出会ったすべてのものへのあふれんばかりの愛を綴っています。その自由でクリエイティブな生き方は、MORE読者にもたくさんの生きるヒントや勇気を授けてくれるはず。どんなお悩みも愛に包み幸せに変換してくれる、安藤さんのハッピーボイスを【前編】【後編】にわけてお届けします。

>>映画監督・安藤桃子さん 初エッセイ集で語る、人生でたくさんの”愛”に出合う生き方とは?【インタビュー・前編】
『ぜんぶ愛。』を上梓した映画監督安藤桃子さん

「心の心地よさに、ちょっとでも敏感でいよう」

――20代後半というのは特に人生に迷いがちな時期です。エッセイを読むと、桃子さんは、20代後半は助監督をやめて監督デビューを決断した頃。その後の人生も折々の決断やそのタイミングが鮮やかで的確だなと感じました。

安藤さん「たしかに、大胆な決断してきたかも。4年間、助監督を頑張っていたけど、27歳の時に監督として自分の作品を撮ろうと決意して、高知に移住したのも映画ロケで訪れた時に直感的に『ここに住みたい!』と思って、3秒で決断。でも、大きな決断って誰もが急にできるようになるわけじゃない。毎日の練習が大切だと思っています」

――毎日の練習ですか?

安藤さん「はい。私、アスリートの方のドキュメンタリーを観ていると、とっても共感するんです。彼らは、毎日練習して本番を迎えます。人生も同じ。で、人それぞれ置かれている環境も違えば、感性も感覚も異なるし、自分が魂から求めているものって、普通に暮らしているとなかなか気づけない。たとえば、日常の中で急に『今、何が食べたい?』って聞かれて、すぐに答えられない時もある」

――そうですね。

安藤さん「でも、自分の心身としっかり繋がっていたら、『カレー!』とか『今、野菜をたくさん食べたい!』ってパッと出てくる。でも、これが意外と難しい。以前、自分の本心や願いはほとんど無意識下……潜在意識の中に隠されているんだというのを聞いたことがあります。私たちが意識できている意思なんて氷山の一角でしかないんだと。当然、大きな決断をするのが難しいと感じる。そこで、自分の奥にある、本心を知るための練習が必要なんじゃないかなと」

――どんな練習をすればいいですか?

安藤さん「常に体や心の、内側の声を聞いてあげることです。私たちって、子供の頃から情報社会の中で生きているから、自分の声じゃないことも、たくさん刷り込まれているんですよね。『女の子のランドセルは赤』とか、値段が高いものが美味しいとか。本心では黒が好きでも、女の子は赤じゃないと幸せになれないようだ……なんて思い込んで、黒が好きだという感性にフタをしたまま生きているところがある。

でも、一方では、自分が本当に好きなものとかやりたいことって消えない灯火だから、好きなものを無視して別なものを選んだら、そこで違和感や嫌な気持ちが出てきたり、あるいは、苦しい出来事が人生の壁として現れたりして、「そっちじゃないよ」って教えてくれたりする。嫌な感情や出来事って、自分の本心に気づけるチャンスでもあるんですよね」

――なるほど。

安藤さん「ここでアスリートの話に戻るんですけど(笑)。彼らは毎日、心身のコンディションやバイオリズムを内観して、その時々の自分の状態を完璧に把握しながら、食べ物を選んでいます。これって決断することにとっても似ているんです。自分の心や体の声を常に意識的に聞いてあげる。『自分はどう?』『今はどんな気持ち?』って、日々、聞いてあげる。自分にフィットする、気持ちいいと感じる方を選択してあげる。心の声が聞こえるようになったら、次は少しでも叶えてあげられるといいですよね。『今、お水が飲みたい!』と思ったら、少しでも良いから飲んでみる。会社の会議中に『お日様を浴びたい!』と思ったら、周囲に迷惑かけるからすぐに外に出ることはできないかもしれないけど(笑)、その場からお日様を見つめるだけでもいい。自分が心地よいと思う心の声に合わせてあげる。感じた方に行動して、気持ちいいと感じるのって、それって実は成功体験でもあるから、そういう意識を大切に生きると、自分の人生だけじゃなく周囲の人までもが、どんどん喜びに満ちて輝きはじめるんです」
映画監督・安藤桃子さんに聞く、幸せになるの画像_2

「嫌いも大切にする。それが好きなものを見つけられるチャンスに」

――日々、自分の心を見つめて大切にしていると、『今だ!』という転機に気づけたり、決断もできるということですか?

安藤さん「そう! 魂から好きな人や仕事やものも分かるようになると思う。『安藤さんは好きなものをどうやって見つけますか?』ってよく聞かれるんですけど、『嫌いを大切にすること』とも答えています。嫌いって好きより自覚しやすいし。嫌いなものを発見したら、好きなものに出会う鍵になる」

――“決断すること”でいえば、恐怖心も厄介ですよね。欲しいものに気づけても、失敗して傷つくのが怖いという恐れもあるから。

安藤さん「ありますよね。以前うちの若手スタッフが『怖くて決断できない』って言っていたことがあります。でも、まずは怖くても良いんだよって伝えました。たとえば、大事な日だから『頭痛になるのが怖い』と思っていたら、本当に頭が痛くなってくる。そんな時、もう1人の自分の出番です!『痛くなったら怖いよね、分かるよ』って自分で自分に共感してあげる。そうすると、誰かに共感された時と同じように安心しはじめるんです。私は無意識に子供の頃からそうしていて、これって普通のことだと思ってたけど、みんなはあんまりしないのかな?(笑)」

――あまり聞かないかもしれません(笑)。

安藤さん「そっか(笑)。でも、子供の一人遊びと一緒です。きっと思い出せます! 大人になるためには、いろんな人との出会いとか出来事が必要だし、それによって自分の内側に気づかせてもらうこともある。だけど、外側だけに意識を向けすぎると、自分自身との対話を忘れてしまう。それは、もったいないなぁと。心のままに決断してより楽しく生きるためにも、もっと自分と会話して自分を愛してあげられたら最高ですよね」

――素敵なお話! ありがとうございます。

安藤さん「情報社会、競争社会の中でみんな無意識に自分を抑えて生きているから、健やかに進みづらいだけで、本来、私たちは誰しもみんな成功できると思うんです。本質である核を大切に、生まれもった気質をまっすぐ伸ばしていけたら、誰とぶつかることもなく、奪い奪われることもなく、自分だけの道をまっすぐに夢を叶えていけると信じています」
安藤桃子さん
あんどう・ももこ●映画監督。1982年、東京都生まれ。ロンドン大学芸術学部卒。高校時代にイギリスに留学、大学卒業後、ニューヨークで映画作りを学び、2010年『カケラ』で映画監督デビュー。2011年、小説『0.5ミリ』(幻冬舎)を出版。同作を自ら映画化し、多数の賞を受賞。2014年、高知県へ移住。結婚・出産・離婚も経験。現在は、ミニシアター「キネマM」の代表を務めるほか、子供たちが笑顔の未来を描く異業種チーム「わっしょい!」では、農・食・教育・芸術などの体験を通し、全ての命に、優しい活動にも愛を注いでいる。父は俳優で映画監督の奥田瑛二さん、母はエッセイストでコメンテーターの安藤和津さん、妹は女優の安藤サクラさん。

エッセイ『ぜんぶ 愛。』

コンプレックスに悩んだ思春期にイギリス留学したことから、映画のロケで訪れた高知県に3秒で移住を決めた話、さらには子育て、映画や生活の話……etc. 自身の半生を振り返りながらも、人生で出会ったすべてのものへのあふれんばかりの愛を綴られている。まるで、冒険映画のような、読み手の心を揺り動かすエッセイ集。(集英社インターナショナル/¥1650)
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撮影/藤澤由加 ヘア&メイク/星野加奈子 取材・文/芳麗 構成/芹澤美希(MORE)