最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】“猫と暮らす”という幸せを知る

猫の目はまん丸だ。猫にはかなわずとも、やはり大きなまん丸の目を持つ町田康が、精巧な猫の目を装塡して、世界を、未来を、あの世までをも描き出す。猫の気ままさ、くにゃくにゃの手、跳躍力……猫を構成する要素がぎゅっと詰まった5編は、『猫にかまけて』などのエッセイシリーズにもつながる楽しさをたたえている。猫の傍若無人ぶりを嘆く動物たちの姿もカラフルに楽しい『諧和会議』、グリム童話を大胆に翻案して猫好きの喝采を浴びた『猫とねずみのともぐらし』、かつてともに暮らした愛猫にシュールな世界で再会する『ココア』、黒猫エルを称える美しい詩のような『猫のエルは』、愛犬との別れから生まれた猫の物語『とりあえずこのままいこう』。30数年もの間、数多くの猫と暮らしてきた作家の言葉が、と優しさでいくつもの想い出に触れてくる。その言葉にヒグチユウコの絵が重なって、動物たちの姿がいきいきと立体化されていく。猫と暮らす人にも、かつて暮らした人にも、道端での出合いに心奪われる人にも。猫に幸せをもらったことのあるすべての人に贈られる作品集。

【イチ押しBOOK1】〈文〉町田 康さん、〈絵〉ヒグチユウコさんの『猫のエルは』

町田 康,ヒグチユウコ,猫のエルは
ヒグチユウコとのコラボレーションも話題の作品集。《猫のエルは生きてるだけで儲け》という言葉が心に彫り込まれる表題作など5編を収める。最終ページのイラストにいたるまで「最っ高」のひと言。(講談社 ¥1800)

【イチ押しBOOK2】村山由佳さんの 『猫がいなけりゃ息もできない』

息をするように猫を愛する作家がもうひとり。5匹の猫と暮らす村山由佳が、17年をともに生きたもみじとの時間をつづったエッセイが『猫がいなけりゃ息もできない』だ。小さな体に病を得ながら生きる姿に涙し、別れの予感に震えながら言葉を書きつける。《尻尾の先が裂けて〈猫又〉になったっていいから、一緒にいようね》、《早く着替えてまた戻っておいで》、愛猫家の想いを代弁する言葉があふれる一冊。ハンカチを用意して、どうぞ。
村山由佳,猫がいなけりゃ息もできない
幼い頃から猫に囲まれて暮らし、《猫のいない人生なんて、窓の一つもない家のようだ》と書く。そんな作家が最も長い時間を一緒に過ごした愛猫との暮らしを、特別な想いを、闘病と別れをつづったエッセイ。(集英社 ¥1400)

【ほかにもあります★オススメBOOKをご紹介】

少年アヤ,ぼくは本当にいるのさ
『ぼくは本当にいるのさ』/少年アヤさん

透明人間になりたい、それでも《ぼくは本当にいる》。多くのものを手放そうとする日々の中、少年アヤの心からまっすぐに出てきた言葉は、きらめくお菓子のように美しくて温かく、お守りにしたくなる。(河出書房新社 ¥1450)
スージー・リー,せん
『せん』/スージー・リーさん

鉛筆の芯が削られて白い紙の上にのせられる。するりと動きだした線はやがて、小さな少女の軌跡になっていく。文字はない。言葉はいらない。鉛筆から生まれた無数の線が、爽やかな冬の空気を連れてくる絵本。(岩波書店 ¥1800)
森泉岳土,セリー
『セリー』/森泉岳土さん

天井まで続く本棚に囲まれて生きるカケルとセリー。気候が変動して死にかけた世界から切り離されたふたりの時間には、暗闇が迫っていた。美しい詩のような表題作に、同人作品や描き下ろしを集めた漫画集。(KADOKAWA ¥1400)


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MORE2019年1月号・さらに詳しい情報は雑誌MOREをチェック! 原文/鳥澤 光
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