岩松了さんの舞台を初めて観た時に、僕の演劇の扉が開いたんです。

【仲野太賀さんインタビュー】「台詞に血をの画像_1
最近観た舞台でおもしろかった作品を聞くと、真っ先に岩松了さん作・演出の『空ばかり見ていた』を挙げ、「傑作でしたね」と言葉をかみしめた太賀さん。実は2011年に自身が初舞台を踏んだのも岩松さん演出作。そして、役者を始めた頃から映画俳優になりたかった太賀さんの「演劇の扉が開いた」キッカケも、岩松さんの作品だった。

「2010年に『シダの群れ』を観た時に『こんなにおもしろい世界があるんだ』と初めて教えられたんです。映像と違って、場所が限られているから絶対表現できないことがあるんですよね。その不自由さが観る側に想像の余地を与える。抽象的なものを頭の中で具体化していく流れが自由だと思いました。言い方が正しいかわからないけど、岩松さんは僕の演劇の父だと思ってます」

この夏に出演する『二度目の夏』では4度目のタッグを組むことに。

「岩松さんの台詞の美しさって圧倒的なんです。物語の世界をかたどる台詞に、人物が踊らされたり、振り回されたり、躍動したり。日常会話としては詩的すぎるかもしれないけど、役者に成立させる抜群の演出力もある。演劇は観るおもしろさもあるけど、台詞に血を通わせていく喜びは、役者の特権かもしれないです」

今回の作品で主演を務めるのは、東出昌大さん。「基本的に根アカで楽しいことが好きで、実は真面目」という共通点があるとか。

「器の大きさは東出さんがもともと持っている魅力のひとつだし、仕事だけじゃなく、好奇心のあることに時間と労力を使える、人生を謳歌する達人だと思うんです。自分が成長した姿をぶつけたいという想いはもちろんあるけど、東出さんからも、いろんなことを教えてもらいたいです」

公演中は夏真っ盛り。今年は舞台に全力投球することになるけど「やっぱり夏は海に行きたい」と言う太賀さん。なんでも去年、新しい海の楽しみ方を発見したのだとか。

「あまりきれいな場所に縁がなくてできなかったけど、海の中で目を開けることにずっと憧れていて。インドネシアに仕事で行った時、撮影後に衣装のまま共演者と海に飛び込んだんです。その時、唐突に『いける』と思ってバチッて開けたら、『あ、見える!』って。ホントはちょっとぼやけて見えるんですけど、魚がいることはわかるよ、みたいな。そこからはもう水を得た魚のように(笑)。解放感? いや、全能感ですね。ゴーグルなしで海の景色をじかに見られる時間と、そんな自分が、なんかすごく好きです」


なかのたいが●1993年2月7日生まれ、東京都出身。2006年にテレビドラマで俳優デビュー。『ゆとりですがなにか』、『仰げば尊し』、『今日から俺は!!』などに出演。映画『タロウのバカ』(9月6日公開)が待機中。舞台出演は賀来賢人さんと共演した『流山ブルーバード』以来1年半ぶり

『二度目の夏』

【仲野太賀さんインタビュー】「台詞に血をの画像_2
結婚して2度目の夏、慎一郎(東出昌大)は別荘に美しい妻と親友の謙吾(仲野太賀)を残し、東京へ出張に行くことに。すると、妻と謙吾に噂が立ち始める。◆7/20〜8/12 本多劇場(地方公演あり) ●M&Oplays ☎03・6427・9486
取材・原文/松山 梢 撮影/熊谷直子 ヘア&メイク/高橋将氣 スタイリスト/石井 大