育児サロンでのパパ排除はなぜ起こる?【ブレイディみかこ連載】
ブレイディみかこ『心を溶かす、水曜日』
日々のモヤモヤを、ちょっとだけグチりたい……。そんな悩めるMORE読者世代の女性たちに贈る、ブレイディみかこさんからのメッセージ。「がんばったのにまだ週の半分……」とため息が出そうな水曜日の私たちを、言葉と共に解放してくれるエッセイ連載です。
育休中のパパは、ママの輪に入れない!?
MORE読者世代の女性たちの中には、育児中の人々もいる。育休を取っている人、これから育休に入る人、育休を取って復職した人など、いろんな立場の人たちがいる。
最近、座談会で聞かされたのは、夫婦で育休を取ったSさんの経験談だ。
地域の子育てサロンのような場所を利用し、夫婦でそこに通っているという。サロンは子どもを遊ばせる場だけでなく、ママたちの社交場みたいになっているのだが、こうした和気あいあいとした雰囲気が、排除の空気をつくり出していることにSさんは気づいたと言う。
「夫が、ママたちの輪に入りにくいんです。態度がよそよそしくて、一人だけ疎外されているので、メンタルをやられるみたいで……」
これにはまず、数の問題がある。日本では、育児はまだ圧倒的に女性に委ねられているから、施設利用者もママ中心になる。しかし、だからといって男性を排除する必要はないが、Sさんの観察によれば、「男性のほうに話しかけちゃいけない」という感じの人が多く、会話するときにもSさんだけの顔を見て話し、パパはガン無視らしい。
「他人のパートナーに話しかけてはいけない」という頑なな態度は、芸能人が不倫すると完膚なきまでに叩かれる日本の風潮とも関係しているのかもしれない。が、もしそうだとしても、そこにいるのにいない者にされる悲しさはわたしにもわかる。これは移民がよく体験する心情だ。部外者。あるいは、喋ったところでどうせ相手にならない者。そういう風に見られているから無視されているのだと感じるとメンタルをやられそうになるのもわかる。
「自分たちとは違う」を受け容れる
こういう現象は、集団による「違う」者への反応である。Sさんたちは、一人で育休を取ってワンオペで子育てしている女性たちのグループにも属さないから、「私たちとあなたたちは違う」光線が二重に発せられていれば、さらに居づらいムードができあがる。最初、これは地方の町の話かなと思って聞いていたが、Sさんたちは東京に住んでいるという。
本当はパートナーにも育休を取ってもらい、育児をシェアしたい女性たちは多いだろう。ならば、すでにそうできている人々を「自分たちとは違う」という目で見るより、これからさらにそういう人たちが増えるよう、共に前進する同志としてウエルカムするほうが建設的だ。「ママたちの輪に入れない。やはり育児は女性のもの」とか言ってパパたちが育休を取りたがらなくなったら、社会はいつまでたっても前に進まない。男性たちの「自分たちも育児をしたい」という要望があってこそビジネス界も社会も変わっていくのに、実践している人たちを少数派として排除するのは逆効果だ。
こういう話は、例えば、水曜日に対する考え方にも通じる。「まだ週の半ばなの?」と暗い気分になる人もいれば、「もう週の半ばだから週末がもうすぐ」と思う人もいる。「いつまでたっても育児は女性が負担し、なかなか世の中は変わらない」と暗い気分でいれば、育児サロンで肩身の狭い思いをしている男性を見てもなんとも思わないだろう。でも、「おお、パパが育児サロンに来るようになったか」とか、「カップルで一緒に育児できるようになってきたなんて、世の中は変わり始めている」と思えば、その変化をもっと先に進めたくなるし、一緒に社会を変える同志として「自分とは違う」人たちを受け容れたくなるはずだ。
「まだ水曜日」と思っていても、「もう水曜日」と思っていても、時間は平等に過ぎ、週末がやってくる。どうせそうなら、来週は今週より少しだけ自分も他人も生きやすい世の中になっているほうがいい。そんなのどうせ無理、という諦めが最も溶かすべき思い込みだろう。
PROFILE
ブレイディみかこ●英国・ブライトン在住のライター、コラムニスト。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)など著書多数
イラスト/Aki Ishibashi