食べることが支援に!難民・避難民のために私たちができること【井桁弘恵のコツコツSDGs】
つづく、つづける。モアモデル・井桁弘恵と一緒に学ぶSDGs【Vol.19】
日々、よく耳にする“SDGs”という言葉。なんのために取り組むの? 私にできることは何? SDGsに興味を持ち始めた井桁弘恵が、そんな疑問に向きあいます!
世界各地で多発している人道的危機により、難民・避難民の数は、2022年に過去最多を記録。そこで今回は、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」世界の実現のためにできることを考えます。
What’s SDGs?
国連で採択された、2030年までに達成すべき17のゴールのことで、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略。私たちが地球に住み続けるために、貧困、飢餓、環境、教育、ジェンダー平等などの問題を、世界が協力して解決することを目指す。
難民・避難民の現状と、今すぐできる支援方法
ウクライナ避難民の女性が働くレストラン『スマチノーゴ』
2022年9月にオープン。ウクライナ料理と日本料理を融合させた創作料理店。店名の『スマチノーゴ』は、「おいしく召し上がれ」を意味するウクライナ語。
◆東京都港区西新橋1の19の8・ACN 虎ノ門ビル2F ☎03-6811-1501 ■https://www.smachnogotokyo.com/
難民支援協会の鶴木さんに聞いた「そもそも難民・避難民って?」
日本に来た難民の定住支援や、居住する地域社会とつながり暮らすためのコミュニティ支援を担当
「『難民』とは、紛争や人権侵害などから自分の命を守るために故郷から逃げざるをえない人のこと。現在、ウクライナからの避難者を、諸外国は『難民』として受け入れていますが、日本政府は『避難民』と位置づけており、いつまで滞在できるか不安定な在留資格です」(鶴木さん)
『スマチノーゴ』オーナーのTAKANEさんに聞いた「“食べる”ことでの新しい支援の形」
『スマチノーゴ』のオーナー。レストランの経営は今回が初めてで、企画の立ち上げからメニュー作成、現場指導などをひとりで行う
“お店のゴールは戦争が終わって、従業員が国に帰れること”
井桁:レストランを開いたきっかけを教えてください。
TAKANE:ウクライナ避難民のために自分にできることはないかと考えた時に、住居やお金の提供は、政府や財団がしている。そうなると必要な支援は、仕事の提供だと思ったんです。それで、日本語が話せないことがあまり障害にならない、かつ人とも交流でき、さらには自国の料理が避難民のモチベーションになると思い、ウクライナ料理店を開くことにしました。
井桁:どんな方が食べにこられることが多いですか?
TAKANE:ウクライナのために何かしたいという方が多いですね。そういう方々のために、スタッフやウクライナ語、国の現状を紹介するボードを置いていて。
井桁:さっきこのボードを読んで、スタッフの方とお話しして、ウクライナに親しみがわきました。TAKANEさんは、お店のゴールをどこだと考えていますか。
TAKANE:戦争が終わって、彼女たちが母国に帰れることですね。それまではここを続けたいし、支えたいです。
井桁:最後に、読者ができる支援はなんだと思いますか。
TAKANE:支援の形は自由なので、コレという正解はないですね。私は支援の多様性が進むといいなと思っていて。もちろんお金や物資の寄付もひとつの支援方法ですが、それ以外にもできることはたくさんある。自分にできることを考えて、行動を起こしてほしいです。
井桁:たしかに。私も自分なりの支援を模索します!
“ありがとう”はウクライナ語で“ジャクユ”
日本に来たウクライナ人女性が語る「実際の暮らしぶり」
ロシアに占領されたドネツク出身。祖国に夫と成人した長男を残し、中学生の次男と日本へ。日本語は少し話せるが接客業は初めて
“日本に来てすぐは不安だった。でも今は仕事があるので普通に生活できています”
井桁:オレーナさんは、なぜ日本に避難することを決めたのでしょうか。
オレーナ:日本に友達が住んでいたのと、少しだけ日本語を勉強したこともあったので、2022年5月に中学生の息子と避難してきました。最初の3カ月はホテルに滞在して、それ以降は日本政府が準備してくれたアパートに住んでいます。
井桁:日本に来た当時は、どんな気持ちでしたか。
オレーナ:お金も、洋服も持たずに日本に来たので、生活のことを考えると不安でした。でも、8月にこのお店の求人を見つけて。うれしかったです。
井桁:今、お店ではディナー担当と聞きました。
オレーナ:はい。日中は、役所や病院に行ったりしないといけないので。
井桁:なるほど。そういった公的機関で使う日本語は、難しくはありませんでしたか。
オレーナ:役所には通訳ボランティアの方がいたし、日本語が話せる友達についてきてもらっていたので、言語で困ることはなかったですね。
井桁:心強い味方がいたんですね。あと数カ月で、日本に来て1年がたちますが、今困っていることや、必要としていることはありますか。
オレーナ:しいてあげるなら、日本語の勉強がしたいです。今より話せるようになったら、生活がしやすくなるし、お客さんとももっとコミュニケーションをとれると思うので。
井桁:話せると楽しいですよね。これまでに働いていて、印象的だったお客さんはいますか?
オレーナ:この間、「あなたは、何を必要としているの?」と聞いてくれたお客さんがいて。その時はちょっと恥ずかしくて答えられなかったけど、ウクライナを想ってくれるその気持ちに心が温まりました。
井桁:そうだったんですね。ちなみに今、何が必要かと聞かれたら、どう答えますか?
オレーナ:欲しいモノはないです。早く戦争が終わってくれたら……。ウクライナの家に息子と一緒に帰ることがいちばんの望みです。
井桁:そんな日が一日でも早く訪れることを、私も願っています。最後に、オレーナさんにとって『スマチノーゴ』はどんな場所でしょうか。
オレーナ:家であり、家族です。
井桁:またオレーナさんの“家”に食べにきます!
いげちゃんが実食!
「和風ボルシチ」
「ビーツの色が鮮やか! カツオだしがきいていて、ホッとする味です。サワークリームがいいアクセントになっています」(井桁、以下同)。¥1300
「ウクライナの前菜盛り合わせ」
「キャベツの塩漬けや鶏レバーのカナッペ……、避難民スタッフお手製の前菜盛り合わせは、どれもさっぱりしていて絶品」。¥2200
「鱈と赤い野菜の蒸し焼き」
「ほろほろの白身魚とトマトやパプリカを使ったソースの相性は抜群」。¥2300
「リュドミラさん手製のブリヌィ」
「ウクライナのクレープは、生地がモチモチで美味!」。¥1500
「難民支援協会(JAR)」の鶴木さんに聞いた「難民のリアルを知るためのQ&A」
日本に暮らす「難民」のことをどれくらい知っていますか? 難民の置かれている現状に目を向けて、自分にできる一歩を踏み出そう。
Q.日本の難民の受け入れの状況は?
A.日本の難民認定率は、1%を下回っています
「世界全体の難民数は、2021年末時点で約8930万人でしたが、2022年に1億人を突破しました。日本には、年間数千人〜1万人の難民が避難してきていますが、難民認定率(2021年)は、わずか0.7%、74名。カナダ(62.1%、3万3801名)、ドイツ(25.9%、3万8918名)など、ほかの先進国に比べ非常に低いのが現状です」(鶴木さん、以下同)
Q.難民の方の生活状況は?
A.まだまだ支援が必要な状況です
「生活の状況はケースバイケースですが、就労が許されず、困窮している方は多くいます。なかには20代の女性も。そういう方に『JAR』では、食料、洋服や生理用品など生活必需品の配給をしていますが、いつもすぐ足りなくなってしまいます。ほかにも、宿泊場所の支援、就労支援、語学力が必要な各種手続きの補助などの支援もしています」
Q.私たちにできることって何?
A.自分の意見を積極的に発信してみて!
「難民をとりまく環境の改善は、多様性のある社会を受け入れることから始まります。そのためには今日本にある『外国人など自分と違う人に対する差別や偏見』に気づくことが重要。また、その気づきをSNSで発信したり自ら考えて投票をすることが社会をよい方向へと導くうねりに!」
Q.より理解を深めるためには?
A.映像作品などで学ぶといいですよ
「難民の置かれた状況について詳しく学びたい人は、『JAR』のInstagram(@ja4refugees)をチェックしてください。また、クルドやアフガニスタンなど、難民の困難や葛藤を描いた良質な映像作品で理解を深めるのもおすすめです」
『マイスモールランド』
幼い頃、生活していた地を逃れて日本に来た17歳の少女。ある日、難民申請が不認定となり……。●Blu-ray&DVD発売中(発売元・販売元:バンダイナムコフィルムワークス)
©2022「マイスモールランド」製作委員会
『FLEE フリー』
アフガニスタンからの難民体験と、同性愛者の苦悩を描いたドキュメンタリーアニメ。●DVD発売中¥4620(発売元:トランスフォーマー、販売元:TCエンタテインメント)
©Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved
イベントに参加してSNSに投稿も!
『チャリティラン&ウォーク』
「参加費は『JAR』を通じて難民の支援に使われます。SNSで発信することでさらに輪が広がるはず」
いげちゃんのSDGsなコツコツ日記。
社会を“知る”姿勢が支援の一歩になる
「お店訪問前は、支援に難しさを感じていました。でも、食を通してウクライナに触れたことで、支援への心理的ハードルが下がって。“知ること”の大切さに気づいてからは、定期的に海外情勢のニュースを確認しています。またお店に、“食べる”支援に行きたい」(井桁)
撮影/野田若葉(TRON) ヘア&メイク/あきやま ひとみ モデル/井桁弘恵(モア専属) スタイリスト/辻村真理 取材・原文/海渡理恵 ※MORE2023年5月号掲載