インティマシー・コーディネーターの西山ももこさんと考える、性的同意とは? 【いげちゃんのコツコツSDGs】
日々、よく耳にする“SDGs”という言葉。なんのために取り組むの? 私にできることは何? SDGsに興味を持ち始めた井桁弘恵が、そんな疑問に向きあいます!
Vol.29-3 インティマシー・コーディネーターという職業を通して、性的同意を考える
「インティマシーコーディネーター」という仕事を知っていますか? この新しい職業の日本における黎明期から活躍している西山ももこさんに、「性的同意」についてのお話を伺いました。
教えてくれたのは……
昨今、日本にも浸透してきた「性的同意」について考える
そもそも「性的同意」とは?
近年、日本にも少しずつ浸透してきた「性的同意」について、改めて教えてください。
まず、「性的同意」とは、セックスはもちろん、ハグやキス、手をつなぐなど、すべての性的な行為の際に、それをお互いに積極的に望んでいるかをしっかりと確認しあうことです。
どれだけ親密な間柄でも、行為のひとつひとつに「同意」を取ることが必須です。たとえば、「家に上がった」=「性的行為に同意した」ということにはなりませんし、お酒が入って判断能力がない時点での「YES」は、同意とはみなしません。同意のない性的言動は性暴力です。
「性的同意」を取ることは非常に重要なことですが、日本ではその大切さを学ぶ機会がないですよね。
たしかに、そういう場はないに等しいですね。そういえば、オーストラリアでは、子どもの時から自分のパーソナルスペースに入ってきた人に対して、それが親であっても嫌だと感じたら「NO」と言っていいことを学ぶんですよ。海外には、そういった「性的同意」の基本を学べる絵本が豊富にあるので、それを読んで勉強するのもひとつの手です。とても分かりやすくて、参考になりますよ!
自分の境界線を知っておくことは大事
先ほど、お話した「性的同意」に関してもうひとつ覚えておいてほしいことがあります。それは、いったん「YES」と返答したとしても、途中で気持ちが変わったら「NO」と意見を変えてもいいということです。状況や感情は流動的なものですから。
たとえば役者さんの場合、キャスティングの時点ではキスシーンに同意したけれど、いざ半年後に撮影に入ってみたら、自分を取り巻く環境や気持ちが変化してキスシーンはやりたくないと感じる場合もあるはずです。そのため、私はインティマシー・コーディネーターとして俳優さんに、「一度出した同意は覆してはいけない」と思わなくていいと伝えるようにしています。誰もが、イヤだと感じたらNOと言える「からだの自己決定権」を持っているので。
協調性を大事にする日本人は、「今さらイヤと言ったら周りに迷惑では?」と思ってしまう人が多いと思うんです。だからこそ、一度決めたことでも「気が変わっていい」という考えをインストールすることが重要ですね。
そうなんです。あと、イヤだと感じる境界線を自分自身で把握しておくことも大事ですね。たとえば、俳優さんの中には、「どういうことをされるとイヤですか?」と尋ねると、「イヤなことがないかも」と回答される方がいます。しかし、「髪の毛は触られてOK? 首まわりは? お腹を見せることはどう?」とひとつひとつ確認すると、「お尻の境目は見せたくない。横腹を触られるのはイヤだ」といった意思が出てくるんです。
たしかに、細分化して考えると自分がイヤな気持ちになるポイントが明確になる!
俳優に限らず、だれもが自分、ひいては相手を大切にするためにも、「大丈夫」と「大丈夫でない」の境界線を知っておくことは重要ですね。
インティマシー・コーディネーターの未来
西山さんは、インティマシー・コーディネーターとして、この社会がどうなっていけばいいと考えていますか。
そうですね、今回「性的同意」についてお話しましたが、日本は、まだまだ「NO」なことに対して「NO」と言えない雰囲気が根強いので、正しい知識を伝えることでそこを崩していきたい。誰もが意見を言いやすくて、ひとりひとりが尊重される社会に変えていきたいですね。
また、ロケコーディネーターや、アクションコーディネーターのように、インティマシー・シーンのある映像作品には、インティマシー・コーディネーターが当たり前につくようになるといいなと考えています。
本日は、ありがとうございました。いつか現場でお会いできるとうれしいです!
いげちゃんのコツコツ日誌
「性的同意」や「ハラスメント」についての話を伺い、自分の意思を明確に表示し、相手とのコミュニケーションを諦めないことの大切さを痛感しました。また、協調性を大事にする日本に、この「性的同意」の概念がもっと広まればいいなと思います。
『インティマシー・コーディネーター 正義の味方じゃないけれど』が3/28発売!
西山さんの著書『インティマシー・コーディネーター 正義の味方じゃないけれど』(論創社刊)が3/28(木)より発売! インティマシー・コーディネーターという職業についてや、仕事内容を詳しく知ることができます。また、これからの時代を生きる若者に向けたメッセージも掲載! 日本の映像業界が抱える問題だけでなく、ジェンダーやハラスメントまで、幅広い人にとって知見が深まる内容となっているのでぜひチェックしてみてくださいね!
撮影/野田若葉 モデル/井桁弘恵 ヘア&メイク/山口春奈 スタイリスト/辻村真理 取材・文/海渡理恵