いげちゃんのコツコツSDGs MORE

日々、よく耳にする“SDGs”という言葉。なんのために取り組むの? 私にできることは何? SDGsに興味を持ち始めた井桁弘恵が、そんな疑問に向きあいます!

【Vol.39】ドネーションカット後、ウィッグになるまでを通して社会とヘアドネーションの在り方を考えよう

この春、SDGsの3番「すべての人に健康と福祉を」や、SDGsの4番「質の高い教育をみんなに」への貢献にもつながるヘアドネーションに取り組んだ“いげちゃん”こと井桁弘恵。

今回は、ドネーションカット後の髪がどのようにウィッグとして生まれ変わり、必要とする人のもとへ届けられるのか。そのプロセスを通して見えてくるこれからの社会のあり方について、医療用ウィッグの製作・無償提供を行うNPO法人「Japan Hair Donation & Charity(通称ジャーダック)」の代表・渡辺貴一さんにお話を伺いました。

What’s SDGs?

SDGs ゴール

国連で採択された、2030年までに達成すべき17のゴールのことで、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略。私たちが地球に住み続けるために、貧困、飢餓、環境、教育、ジェンダー平等などの問題を世界が協力して解決することを目指す。

教えてくれたのは……

特定非営利活動法人「Japan Hair Donation & Charity」代表
渡辺貴一さん

2009年、日本で初めてヘアドネーションを専門に行う団体「Japan Hair Donation & Charity(JHD&C/ジャーダック)」を設立。寄付された毛髪だけで製作した医療用ウィッグ『Onewig』(JIS規格取得)を、頭髪に悩みを抱える18歳以下の子どもたちに無償で提供する活動を行っている。

いげちゃんのドネーションカットの模様は、過去記事をチェック!

  • 井桁弘恵 SDGs
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今春、ヘアチェンジを機に、学生時代から関心のあったヘアドネーションに参加したいげちゃん。その様子はこちらからご覧ください!

【井桁弘恵】いげちゃんがカットした髪をヘアドネーション!【いげちゃんのコツコツSDGs】

ウィッグ製作の現状は?

井桁弘恵 SDGs

いげちゃんどういった方がヘアドネーションをしているのでしょうか?

渡辺さん
:約10年前は、寄付の多くが20〜30代の女性からでしたが、近年はヘアドネーションの認知度が高まったことで、10代が全体の4割を超えるまでに増えています。さらに最近は、男性からのヘアドネーションも増えており、ジャーダックが寄付状況のデータを取り始めた2019年と比べると4倍以上にのぼりますね。

いげちゃん男性も増えているんですね。そもそも、ヘアドネーション数はなぜ増えたのですか?

渡辺さん:ヘアドネーション数増加の背景には、SDGsの周知やコロナ禍に高まった寄付への関心が関係しています。しかし、最近は横ばい傾向にあって、社会全体に漂う「寄付疲れ」も感じられるようになりました。

ヘアドネーションに限らず、寄付やチャリティは義務ではありません。できる人が自分に合った方法で見返りを求めずに行うものだと思っています。そうした意識が浸透することで、生活の中で無理なくチャリティに参加できるようになるのではないでしょうか。

寄付された髪がウィッグになるまで

いげちゃん:寄付された髪の毛がウィッグになるまでのプロセスを教えてください!

渡辺さん:まず、提供された髪の毛を計測し、長さに応じて仕分けを行います。目安は以下の通りです。

・31cm以上:ショートウィッグ用
・40cm以上:ボブウィッグ用
・50cm以上:ロングウィッグ用
・60cm以上:スーパーロングウィッグ用

仕分けされた髪は海外の工場に送られ、髪質や色、太さなどの違いを均一にするためにトリートメント加工が施されます。この工程には、早くても半年ほどかかり、政治状況などの影響によっては1年以上かかる場合も。ちなみに、ウィッグ1つを製作するには、30〜50人分のドネーションヘアが必要なんですよ。

加工が終わった髪の毛は、工場で職人の手によって、利用者の頭に合わせて丁寧に一本一本植毛してウィッグに仕上げます。

このように、人毛ウィッグの製作には多くの手間と時間がかかるため、実際に必要としている人の手もとに届くまでには、約2年を要するのが現状です。我々の団体では、1年間で約150人分の製作が限界ですね。

ウィッグを“かぶらない”選択肢がとれる世の中に

井桁弘恵 SDGs

いげちゃん:人毛と人工毛のウィッグの違いは?

渡辺さん:耐用年数が違います。人毛の場合、毎日使用しても短くても約2年はもちますが、安価な人工毛では3カ月から半年ほどで買い替えが必要になることがほとんど。私たちの団体では、さまざまな理由で頭髪に悩みを抱える子どもたちに、医療用の人毛ウィッグを無償で提供していますが、自分で購入しようとすると、数十万円もの高額な費用がかかってしまいます。

いげちゃん:これからNPO法人「ジャーダック」が目指す未来や、私たち読者ができることを教えてください。

渡辺さん:コロナ禍直前からヘアドネーションの認知度が大きく高まり、髪の毛を寄付してくださる方も増えました。一方で、ウィッグを使う方が抱える悩み——たとえば、海や遊園地などのレジャーを思い切り楽しみにくいことや、夏場の熱中症リスクなどは、まだ十分に知られていません。こうした悩みの背景には、容姿への無意識の偏見や、ウィッグを使っていることを打ち明けることへの不安などが隠れています。
今後は、ウィッグを「かぶる・かぶらない」を自由に選べる社会の雰囲気づくりがとても大切。どんな髪型でも気兼ねなく過ごせるように、ウィッグは“必要だからつけるもの”ではなく、“ひとつの選択肢”として、それぞれが心地よいスタイルで過ごせる環境を作っていけたらと思っています。

いげちゃんのコツコツ日誌

いげちゃん:今回お話を聞いて、ウィッグを使用している方が、「恥ずかしい」「隠さなきゃいけない」と感じることのないよう、私自身はもちろん、社会全体の意識を変えていく必要性を感じました。同時に、ウィッグを必要としている方々のもとにこれからもきちんとウィッグが届くよう、現在横ばいになっているというヘアドネーションが、無理なく健全な形で今後も行われるといいなと思っています。

撮影/wacci ヘアスタイリング/塩澤延之(mod's hair)  メイク/山口春菜 モデル/井桁弘恵(MORE専属) スタイリスト/小林優奈 取材・文/海渡理恵