限りある青春のキラメキをとじこめた映画 『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』
ひとりの少年の成長を12年かけて撮り続けた『6才のボクが大人になるまで』が公開されたとき、リチャード・リンクレイター監督は「主人公はその後大人になり、ヨーロッパ旅行中に電車の中で女の子と恋に落ちるんだ」と語っていました。“旅行中に電車で恋に落ちる”とは、監督がかつて手がけたラブストーリーの名作『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の内容のこと。つまり、時代背景や登場人物の人格は違っても、監督した作品がひと続きになっていることを示唆していたのです。ファンの妄想をかき立てるその言葉に「なんてステキな考え♡」と激しくときめきましたが、今回紹介するのもまさに、『6才〜』の精神的続編。18才の主人公が大学に進学し、新学期を迎えるまでの3日間を描いています。 舞台は1980年のアメリカ・テキサス州。野球推薦で南東テキサス州立大学に入学することになったジェイクは、期待と不安を抱きながら寮に足を踏み入れます。ところがそこにいたのは、野球エリートとは思えない一風変わった先輩や同級生たちばかり。彼らに誘われるまま、ジェイクは毎晩のようにパーティを楽しみ、お酒と女の子に溺れて羽目を外しまくります。これまでに経験したことのない自由を満喫し、青春を謳歌するジェイクたちのあまりの騒ぎっぷりには苦笑い。体育会系のおバカ男子たちの日常を見ても何の教訓も気づきもありませんが、シーンが変わるごとに挿入される「新学期スタートまで○日と○時間」という説明がポイント。限りある時間の流れを意識させることで、平凡な主人公たちの日常をドラマチックに見せる演出は、リンクレイター監督ならではです。 注目は、ひとめぼれした演劇専攻の新入生ビバリーとの出会い。明確な目標を持つアーティスティックな彼女との有意義な会話を通して、野球部の仲間といるときとは明らかにジェイクの目が変わっていきます。たったひとつの出会いによって、下ネタばかり言っていた昨日の自分が子どもに思えてくる。青春時代の伸びしろの大きさと無限に広がる未来に、大人はちょっとだけジェラシーを抱いてしまうはず。「死ぬときに後悔するのはやったことじゃない。やり残したことさ」、「今を楽しめ、長くは続かないから」、「開拓すべき道は自分で見つけるもの」など、おバカな登場人物たちから飛び出す意外な台詞や、劇中に挿入される言葉も痛快です。ちなみにジェイクを演じたのは、「Glee」シリーズでおなじみのブレイク・ジェナー。彼のイケメンぶりも堪能あれ。 (文/松山梢) ●11/5〜新宿武蔵野館ほか全国ロードショー ©2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.