人間の心の深部を捉えた新しい3D映画『誰のせいでもない』
3D映画といえば壮大なアクションを描いた派手なスペクタクル映画を思い浮かべますが、今回紹介するのはアクション要素、ゼロ! というよりむしろ、2Dで撮ったとしても相当シンプルで、スローな展開の人間ドラマを描いた作品です。監督したのは『パリ、テキサス』や『ベルリン・天使の詩』などで知られるヴィム・ヴェンダース。『ブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブ』や『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』などドキュメンタリー映画を手がけていることでも知られています。 そもそも彼がなぜ3D映画を撮ろうと思ったのかというと、ドキュメンタリー『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』の撮影で、3D技術の経験を積んだから。そこには空間や深みがあるだけでなく、カメラの前の人物のシンプルで自然な在り方と、透き通るような存在感を感じたのだそう。肝心の本作の物語はというと、ある事故を起こしてしまった作家のトマス(ジェームズ・フランコ)の人生を12年にわたって追ったドラマ。自分なりに事故と向き合い、苦しみ、葛藤しながら少しずつ立ち直って行くトマスですが、注目は彼を取り巻く3人の女性たちです。 被害者少年の母(シャルロット・ゲンズブール)、トマスの元恋人(レイチェル・マクアダムス)、編集者の妻(マリ=ジョゼ・クローズ)は、当事者であるトマス以上に、事故がもたらした自分の人生の変化に、折り合いをつけられずにいます。そこには、「誰のせいでもない」と口では言いながら、自分を傷つけたトマスにずっと罪悪感を背負っていてほしいと願う残酷さが見え隠れ。事故の経験を利用しながら作家として成功しているトマスに対する複雑な思いが、ヴェンダースらしい息を飲むほど美しい映像と対比して描かれます。この人間の矛盾や複雑さという心の深部を、3Dで捉えたのは斬新。登場人物たちの心のひだに触れるような、全く新しい3Dを体験をしてみて。 (文/松山梢) ●11/12〜ヒューマントラストシネマ新宿ほか全国順次ロードショー ©2015 NEUE ROAD MOVIES MONTAUK PRODUCTIONS CANADA BAC FILMS PRODUCTION GÖTA FILM MER FILM ALL RIGHTS RESERVED.