ダブル不倫!? 恋愛のゴタゴタ!? なのに愛すべきフランス映画『パリ、恋人たちの影』
モノクロームの美しい映像が印象的な本作。端的に説明すれば一組の夫婦のW不倫を描いた物語なのですが、エピソードのひとつひとつがいちいちツボ。特に女性なら誰もが膝を打ちたくなる“恋愛あるある”がちりばめられています。監督はヌーヴェルヴァーグの次世代の旗手として注目を集め、1960年代から活躍するフランスの名匠フィリップ・ガレル。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの歌姫・ニコとパートナーだったことでも知られていて、自身の経験した愛と人生、時代の空気感を反映した痛みと哀愁に満ちた作品を作り続けてきた人です。 主人公はドキュメンタリー映画製作をしている夫ピエールと、彼の才能を信じて支えてきた妻マノン。仕事に行き詰まりを感じていたピエールは、若い女性と偶然出会い不倫関係に。一方のマノンも、夫に愛されない不安を埋めるように、他の男性と不倫していたことが発覚。愛されたいともがきながらも大切な人を傷つけてしまう、八方塞がりの状態に陥った大人の男女の孤独と矛盾を描いています。注目は、ドキッとさせられる台詞の数々。浮気をした後に花束を買って帰宅した夫に対し、「夫は浮気をすると花でごまかすもの。花を見ると女は感じるの。“男の切り札”だと。でも今は信じているからうれしい」と満面の笑みで妻が語るシーンは、夫ならずとも背筋が凍る場面。 さらに夫が浮気相手に「いつか君だけの男が現れる、それでお別れさ。それが人生」とのたまうシーンでは、浮気を正当化し、責任から逃れようとする男のずるさが浮き彫りになりますし、妻も浮気をしていたと知ったとたんに動揺し、許すことができずに苦悩する姿は悲しくなるほどリアル。冒している行為は影のように同じなのに、どこかで“浮気は男だけのもの、女の浮気は深刻だ”と思っている男性の本音が透けて見えます。実は監督は「映画が到達しうる最高の男女平等についての映画と言えます。女性のキャラクターに強力な支持を与え、男性への風当たりを強くしました」と語っているほど。人を愛することの残酷で滑稽で愚かな一面を描きながらも、ラストではドラマチックに喜びと希望を描く、名匠にしか描けない極上のラブストーリーです。 (文/松山梢) ●1/21〜シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー ©2014 SBS PRODUCTIONS - SBS FILMS - CLOSE UP FILMS - ARTE FRANCE CINÉMA