娼婦たちのクレイジーな1日をiPhoneの画像_1

今年の映画賞レースはミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』(2/24〜公開)が席巻中ですが、評価されている理由のひとつに、実在するロサンゼルスのあらゆる場所で撮影しているというポイントがあります。渋滞するハイウェイでいきなり多くの人が踊り出したり、観光スポットとして有名なグリフィス天文台で宙にも浮かぶような恋に落ちたり……。ロサンゼルス愛に満ちあふれた映画なのですが、今回紹介する『タンジェリン』もロサンゼルス、特にウェストハリウッドを舞台にした作品。華やかなハリウッドからほど近いゲイフレンドリーな街として知られていて、「売春と薬物使用に関して悪名高い地域」でもあるそう。監督のショーン・ベイカーは、犯罪行為が日常茶飯事のこの地域を舞台に、なんとiPhone5sで撮影を敢行しました。 彼は別に素人というわけではなく、これまで長編を4作撮ってきた実績のあるアメリカ・インディ界の気鋭。この作品では、超低予算を逆手に取り、綿密なリサーチとアイデアを武器に監督、脚本、撮影、編集、プロデュースまでもこなしました。主人公はトランスジェンダーの女性ふたり。実は、これが映画初出演となる演技経験のまったくない人たち。撮影する地域のリサーチ中に監督が出会った、HIV/エイズリサーチセンターで働く健康教育者とクラブシンガーで、実生活でも親友同士だそう。彼女たち自身やその友人たちの体験を元に、エッジの効いた笑いを散りばめた脚本を練り上げました。 舞台はロサンゼルスのクリスマスイブ。28日間の服役を終えた娼婦のシンディは、親友で同業のアレクサンドラから、彼氏が金髪女と浮気したと聞き逆上。浮気相手をみつけてとっちめようと街に繰り出します。彼女たちの下ネタ満載の罵り合いや、発見した浮気相手を引きずり回す荒っぽさには、思わずお口あんぐり……。お騒がせ女たちのエネルギッシュな日常に、呆れを通り越して爆笑させられます。ただし、物語の根底には性的マイノリティの厳しい現状や、愛されたいと願いながらもイブを孤独に過ごすちょっぴり切ない現実が。あらゆるトラブルに見舞われながらも決してへこたれず、ロサンゼルスの街をまるでランウェイのように闊歩する気高い姿は、次第に神々しくさえ見えてきます。美しい友情が描かれるラストには彼女たちに目一杯のハグを送りたくなる、最高にチャーミングなガールズムービーです。 (文/松山梢) ●公開中 ©2015 TANGERINE FILMS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

映画『タンジェリン』公式サイト