気がつけば、映画のはなし。今月は『アリスのままで』
『アリスのままで』
愛する人のことも、過去の想い出も。すべて忘れてしまう病に侵された時、人はその事実とどう向きあうのだろう? 若年性アルツハイマー病と宣告されたアリスの運命と葛藤、家族との絆を描いた感動作。●新宿ピカデリーほかにて上映中
主人公は母と同世代。だから“ヒリヒリ”する(杏)
共感や想像じゃなく、心の琴線に触れる作品(游)
杏)今月の作品は『アリスのままで』。ジュリアン・ムーアがアカデミー賞主演女優賞を受賞したことでも話題になって、私たちも資料を見て即決だったね。 游)もうね、私、4回くらい泣いちゃったよ。ジュリアン・ムーアのお芝居、すごかったなぁ。積み上げてきたキャリアや地位をなくす恐怖も、家族に負担をかけることへの葛藤も、経験したことないのにリアルに感じた。 杏)でも病気が進行するにつれて少女みたいに穏やかにも見えて。その過程が本当に見事で、ひとりで演じているのに同じ女性には見えないくらいだよね。 游)うん。特に次女のリディアとのシーンが印象的。リディアがアリスに「記憶をなくすってどんな感じ?」って聞く何気な い会話とか、愛する娘のことをほんの一瞬だけ忘れてしまうところとか、すごくせつなくて。 杏)アリスは50歳で、ちょうど私たちの親の世代。だから“自分がこの病気になったら”じゃなくて“周りの人間として何ができるかな”って思った。ただ映画に没頭するだけじゃなくて、その先に、すごく考えさせられることがある気がしたな。 游)そうだよね。たとえば恋愛映画なら共感したり想像したり、自分が泣いている理由がわかるけど、この作品は簡単に共感や想像はできないし、心のどこに触れて涙が出ているんだろうって思うような不思議な感覚。 杏)この作品、英語の原題は『STILL ALICE』でしょ? 邦題は“アリスのままで”って訳されてるけど、私は最後まで観終わった時“まだ、アリスなんだ”って意味もこめられてる気がしたの。重たい題材なのにずっしり心の重荷にならないのは、やっぱりあのラストシーンのおかげかな? 游)うん、きっとそうだと思う。
--------------------- MORE2015年8月号・さらに詳しい情報は雑誌MOREをチェック! 取材・文/新谷里映 撮影/森脇裕介 イラスト/STOMACHACHE. ---------------------