トム・フォード監督が描く、圧倒的に美しくて最高に恐ろしい復讐劇! 映画『ノクターナル・アニマルズ』
2009年に『シングルマン』で鮮烈な映画監督デビューをしたトム・フォード。グッチやイヴ・サンローランのクリエイティブディレクターを経て、2005年に自身のブランド「トム・フォード」を立ち上げ、ファッションアイコンとしても高い注目を集めている彼が2作目の題材に選んだのは、オースティン・ライトによる同名小説。エイミー・アダムスとジェイク・ギレンホールが主演を務め、ヴェネチア国際映画祭で審査員賞を受賞するなど、世界中の映画祭で絶賛されている話題作です。 主人公は夫と共に裕福な生活を送りながらも、冷えきった夫婦関係により心は満たされていないアートギャラリーオーナーのスーザン。ある日、20年前に別れた元夫のエドワードから、彼自身が書いた小説「ノクターナル・アニマルズ」が送られてきます。エドワードの精神的な弱さを軽蔑していたにもかかわらず、暴力的かつ衝撃的な描写でグイグイ小説の世界に引き込む、その非凡な才能に驚くスーザン。読み進めるうちに、彼との再会を密かに期待するようになっていきます。果たしてエドワードが小説を送ってきた理由は何なのか。20年前に選択した愛の結末の、意外なその後が鮮烈に描かれます。 映画ではスーザンが小説を読む現在と、小説の中の架空の物語、そして過去が交錯して描かれるのですが、スーザンが紙で手を切るシーンひとつとっても、その行為にはしっかり意味が込められているので見逃さないように注意。オフィスや部屋にあるアート作品にも、物語の行方を雄弁に語るメッセージが。多くのメタファーを含む、細部にまでこだわった緻密な演出は見事です。もちろん、トム・フォードの映画といえば美しい衣装も必見。特にスーザンのファッションやメイクには、複雑な女心を表すわかりやすい変化があるのでぜひチェックを。映し出される世界観が美しければ美しいほど、裏に隠された人間の醜さが立ち上がってくる本作。女性視点で見ると、最後には背筋がゾクゾクするような恐ろしさや絶望を感じるはず。男の復讐って、ホント怖いです……。 (文/松山梢) ●公開中 ©Universal Pictures