人生でいちばん大切な3日間。映画『ぼくらの家路』
自分が当たり前だと思っていたことが、当たり前ではなかったと気づかされる──。今回ピックアップしたドイツ映画『ぼくらの家路』は、10歳と6歳の兄弟が母を捜す3日間の旅を描いた感動作。そこには、家族についての発見があります。
ジャック(イヴォ・ピッツカー)とマヌエル(ゲオルグ・アームズ)は、シングルマザーの母ザナ(ルイーズ・ヘイヤー)と3人暮らし。ザナは明るくて優しい母親ですが、子育てよりも恋人との時間や夜遊びが優先で、弟の世話と家事はいつもジャックの役目。それでも大好きな母親と一緒に過ごす時間は兄弟にとってかけがえのないものでした。そんなある日、母親が突然いなくなってしまいます。家の鍵もなく帰ることができなくなり、ジャックとマヌエルは3日間、お金もなく、寝る場所もなく、頼る人もいないなか、母を捜し続けます。
母親を捜す旅というシンプルな物語のなかで描かれるのは、子供にとってはどんな母親でも母であることです。周りに何を言われようとも「お母さんに会いたい」気持ちで頑張る2人の姿は、もうたまらなく健気で、切なくて……。たった3日間だけれど、彼らにとってはものすごく長い3日間。ラストシーンの兄の決断と勇気には心が震えます。その震えをもたらすのは、ジャックを演じた子役のイヴォ・ピッツカー。全編にわたって、これがデビュー作とは思えない素晴らしい演技を見せてくれますが、なかでも食卓のシーンからラストに向けての彼の表情は忘れられません。
余談ですが、『ぼくらの家路』を観て、こういう映画をもっと観たいなぁと思った人、『少年と自転車』(11年)や『メイジーの瞳』(14年)などもオススメです。
(文/新谷里映)
●9/19〜ヒューマントラストシネマ有楽町ほか
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