最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】読書で“ 新しい景色”を編み上げる

たったひとつの感情に、想いに、心が引っぱられて凝り固まってしまう。そんな瞬間は誰にでもあるし、それが何年も何十年も続くことだってある。「結婚したい」、「誰かと出会わなきゃいけない」、「時間がない」etc.。仕事をやめ、家業を手伝いながら妊活をする主人公・佐知子と、婚活を始める親友の実花はともに35歳。友人や家族や仕事相手など、さまざまな人間関係と、それぞれの願望を抱えながら生きている。女たちを焦らせるのは誰? 「美人」、「安住の地にいる女」、「アイドル」、「オタク」という言葉で、女子を「」の中にとじ込めるのは誰? 20〜30代女子をやわらかくおおってしまう不安の正体って何? 小説『デートクレンジング』は、そんな疑問を丁寧に解きほぐして、呪いの言葉を解体する。同時に、美しいものをコラージュして“新しい景色”を編み上げていく。破壊力でも包容力でもなく、同じ場所に立って一緒に考えるために、作者は言葉を使って物語を進めていく。友情の強さと世界の美しさを信じて、言葉が未来を変える瞬間を目撃するために、本を読む。

知っていたはずのものが、知らないものを含んで豊かにふくらんでいく。そんな快感をダイレクトに味わわせてくれるのが『おおきなでんしゃ』という絵本。小さな体の全身で生きる子どもの目を通して見るいつもの景色は、こんなにも鮮やかな色彩と驚きに満ちている。小さいと思っていたものは大きいのかもしれない。大きいと思っていた大人は忘れん坊かもしれない。ファンタジーだからこそ立ち現れる、不可思議な現実感に心が躍る。

【イチ押しBOOK1】柚木麻子さんの『デートクレンジング』

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引っ込み思案の佐知子とアイドル志望の実花は、大学で知りあって親友になる。それぞれに働き始めて35歳。婚活や妊活が、新しい人間関係が、ふたりの想いと友情を揺り動かす。(祥伝社 ¥1400)

【イチ押しBOOK2】座二郎さんの『おおきなでんしゃ』

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ある朝、ルイくんはお父さんにお弁当を届けるためにお出かけする。ピンクの電車に乗ると、お店に食堂、図書室もあるし、別の電車も走っている⁉ コラージュされた紙と色の重なりが不思議な奥行きを生む絵本。(あかね書房 ¥1300)

【おすすめBOOKはこの3冊!】

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奥田亜希子 『青春のジョーカー』

春は、青い。可憐さと残酷さをあわせ持つ中学生の間では、いびつなカーストが形成されている。だが、明度の高い文章に導かれるうち、呪われた状況がひらりとひるがえる瞬間に立ち会う。奇跡のような長編小説。(集英社 ¥1500)
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グレアム・スウィフト〈訳〉真野 泰 『マザリング・サンデー』

メイドたちが里帰りする、年に一度の特別な日。父母のいないジェーンと、裕福な実家を持つポール。未来に続く彼女の道と、途切れてしまうもうひとつの道。まぶしいほどの解放と喪失を同時に描く、美しい英国文学。(新潮社 ¥1700)
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スケラッコ 『平太郎に怖いものはない』前編

お好み焼き店を営む平太郎は16歳。夏の光、夜の闇、うごめく怪異よりも恋する心に揺り動かされる。妖怪実見譚『三次実録物語』をベースに、お好み焼き欲をもジワジワかき立てる漫画。「トーチweb」で連載中。(リイド社 ¥630)

--------------------- MORE2018年7月号・さらに詳しい情報は雑誌MOREをチェック! 文/鳥澤 光 ---------------------