不器用でキラキラしていた青春時代がフラッの画像_1
コンプレックスは誰にだってあるもの。ただし、思春期に抱えていたコンプレックスは、時間の経過とともに次第に薄れてしまう気がする。なぜならその多くは“みんなと違う”ということが原因だったから。大人になれば、他人と違う部分は個性として武器になることを知っていくけれど、学校という限られた世界がすべてだった学生時代は、そうはいかない。この映画は、かつて自分を支配していた強烈なコンプレックスを思い出す、痛々しくてリアルな青春映画だ。

主人公は高校1年生の志乃(南沙良)。しゃべろうとするたびに言葉につまり、名前すらうまく言うことができず、入学初日の自己紹介でさっそく笑い者になってしまう。ひとりぼっちの高校生活を送る志乃は、ひょんなことから同級生の加代(蒔田彩珠)と仲良くなり、一緒にバンドを組むことに。文化祭に向けて猛練習をし、少しずつ人前で演奏できるようになってきたふたり。ところが駅前で演奏しているところを、クラスのお調子者の菊池(萩原利久)に見つかってしまう。志乃が吃音であることに劣等感を抱える一方、実は加代にもミュージシャン志望なのに絶望的に音痴というコンプレックスが。ことあるごとにふたりをからかう菊池にも、いじめられていた過去があったことが明らかになる。

誰よりも不幸だと思い、悲劇のヒロインのように思いつめる自意識過剰な志乃に対し、「いいよね、あんたは言い訳があって」と加代が言い放つシーンは、目がさめるほど強烈。友情を通してコンプレックスを克服していく単純でわかりやすい物語ではなく、せっかく仲良くなりかけた友達と傷つけあったり、成長できるチャンスを前に尻込みしたり、人間の弱さや人生のうまくいかなさをそのまますくい取る、嘘のない展開は新鮮。いつしか不器用な志乃たちに、自分自身の過去を重ねてしまうはず。そして、もがきまくっていた青春時代が、なぜかとてつもなく美しく思えるはず。

 ●7/14〜より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
 
©押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会
映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』公式サイト