話題のステージの中から、キーワードに沿ったイチ押し舞台、そして2本のおすすめをご紹介します。

【今月のキーワード】実力派キャストが揃う喜劇の傑作!

綿密なリサーチに、ヒラメキに満ちた演劇的仕掛けをプラスし、高い評価を得ている、気鋭の演出家・熊林弘高。初シェイクスピア作品に選んだのは、恋愛喜劇『お気に召すまま』。抑えきれない人間の情動を美しく、ときに残酷に描いてきた熊林は、本作で性的指向にレッテルを貼りたがる“常識”を問う。ヒロイン・ロザリンドは、恋人を追って男装でアーデンの森へ。その恋人のヒーロー・オーランドは、男装したロザリンドに気づかず、恋の手ほどきを受ける。森では、厳格な規範に縛られた宮廷生活とは対照的に、なんのタブーもなく、ジェンダーにとらわれない恋愛が繰り広げられるのだった。ロザリンドを演じるのは、満島ひかり。ドラマ『シリーズ・江戸川乱歩短編集』でも見せたチャーミングな男装を、生で観られるのは楽しみ。実の兄・オリバーに命を狙われ、森に逃げるオーランド役には、坂口健太郎。満島は『秋のソナタ』、『かもめ』に続き、熊林作品は3度目。坂口は初舞台『かもめ』で満島と共演ずみ。演出家の絶対的信頼を得るふたりがつくり上げる新しいカップル像に注目!

本作の初演は、1600年頃。400年以上もの時を経てなお人々から愛され、世界中で上演がされているとは驚き。そのときどきの演出家が、現代性やオリジナリティを加えられるのは、ベースのストーリーがしっかりとしていて素晴らしいからにほかならない。一般的に牧歌的なユートピアと解釈されるアーデンの森を、令和を生きる日本の演出家である熊林がどう解釈したのか。原作を読んでおくことは、彼の演出をひもとく大きなヒントになるはず。
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【今月のイチ押し☆ステージ】『お気に召すまま』
『かもめ』のキャストからは、満島ひかりや坂口健太郎だけでなく、ロザリンドの従妹シーリア役の中嶋朋子らが出演。ほかに、熊林が信頼する満島真之介、中村蒼、温水洋一も。豪華俳優陣の年齢や男女を大胆にひねった配役も面白い。◆7/30〜8/18(地方公演あり) 東京芸術劇場プレイハウス ●東京芸術劇場ボックスオフィス ☎0570・010・296
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【今月のイチ押し☆ステージ2】『お気に召すまま』
シェイクスピアのユーモアセンスが光る恋愛喜劇は読みものとしても極上。翻訳は、演劇評論家としての顔も持ち、シェイクスピアの全戯曲の新訳に取り組む松岡和子。テンポのいい訳で読みやすく、注釈もわかりやすい。(ちくま文庫 ¥950)

オススメステージは、KERA CROSS 第一弾 『フローズン・ビーチ』と『オリエント急行殺人事件』。

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KERA CROSS 第一弾 『フローズン・ビーチ』
ケラリーノ・サンドロヴィッチの名作戯曲を注目の演出家が新たにつくり上げる連続上演シリーズがスタート。その第1弾は、女優4人がつむぐ初期の傑作ミステリーコメディを、気鋭の演出家鈴木裕美が演出。出演は鈴木杏、ブルゾンちえみ、朝倉あき、シルビア・グラブ。◆7/31〜8/11(地方公演あり) 日比谷シアタークリエ ●東宝テレザーブ ☎03・3201・7777
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『オリエント急行殺人事件』
アガサ・クリスティの名作ミステリーを河原雅彦が演出。名探偵ポアロ役は演劇ファンに熱い支持を受ける小西遼生。殺人が起こる列車に乗り合わせる乗客には、室龍太(関西ジャニーズJr.)、伊藤純奈(乃木坂46)、田口トモロヲと多彩な顔が揃う。◆8/9〜18(地方公演あり) サンシャイン劇場 ●サンライズプロモーション東京 ☎0570・00・3337
原文/小泉咲子