夢を追う? 家族の幸せ? メリル・ストリープが 悩めるロック歌手を演じた映画『幸せをつかむ歌』
先日、母親業も仕事も両立するパワフルなバレリーナを描いた『Maiko ふたたびの白鳥』を紹介しましたが、今回は家族を捨てて夢を追い続けた女性のお話。ヒロインは3人の子供と夫を残し、ロックミュージシャンを目指して80年代にロサンゼルスへやってきたリンダ。54歳になった今も音楽活動だけでは食べていけず貧乏暮らしですが、バンドのボーカルとして自分らしく歌い続けてきたことに、充実感と誇りを持って生きています。
ところが、離婚を経験して自暴自棄になっている娘のジュリーをサポートするため、数十年ぶりに帰郷したことから事態は一変。娘から悪態をつかれ、まもなく結婚する長男からはよそよそしい態度を取られ、良妻賢母を絵に描いたような元夫の再婚相手からは、リンダが捨てた子供たちをいかに愛情深く育ててきたか、強烈な言葉と共に突きつけられるのです。夢を追いながらも、家族をあきらめきれなかった本当の自分の思いに気づいた彼女が、どうやって現実から目を背けずに夢との折り合いをつけていくのか。「何かを得るには何かを失わなくてはいけない」とよく言うけれど、失ったものを取り戻す方法だってきっとあると思わせてくれる、勇気ある再生のドラマです。
ちなみに、これまでファッション誌の編集長やイギリスの首相、実在の料理家や魔女など、あらゆる役を変幻自在に演じてきたメリル・ストリープが、今回はヒロインのミュージシャン役をリアルに演じるためにギターを猛特訓し、すべて生演奏で撮影に挑んだというから驚き! アイライナーで目をぐりぐりに囲み、ハードなアクセをジャラジャラ身につけ、ギターを手にしゃがれた声でブルース・スプリングスティーンを歌う姿はなかなかワイルドです。また、娘のジュリー役を演じた実の娘メイミー・ガマーとの共演も必見。映画だけでなく舞台やテレビドラマでもキャリアを積んできた、母譲りの味のある演技に注目を。
(文/松山梢)
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