木村佳乃さんインタビュー「大切にしていることは、『足もとを見て、今日を生きる』こと」【In her 40s】
憧れの先輩に聞く、“私が選んだ今とこれから” VOL.2
40代の憧れの先輩にインタビューするスペシャル連載。今回は凜とした美しさで支持され続ける木村佳乃さんが登場。「過去にも未来にもとらわれない」という、木村さん流の生き方とは。
2023年MORE8月号掲載企画から、インタビュー記事をお届けします。
木村佳乃さん 47歳「未熟だからしんどい20代。でも、そこに学びもたくさん隠れている!」
人生は何が起こるかわからない。だからこそ、過去でも未来でもなく今日という一日を全力で生きられる自分でありたいと思っています
「とりあえず」行った撮影現場、そこで「女優をやる」と決めた
ロンドンで生まれ、中学校まではニューヨークで生活、海外経験はあるものの、幼い頃の私は至って普通の女の子でした。音楽や映画や舞台は好きだったけれど、自分が芸能界で活躍するなんて想像もしていなかった。そんな私がこの世界に飛び込んだのは「特にやりたいことがなかった」からなんです。大学に進学したけれどキャンパスライフにも勉強にも夢中になれず、かといって、ほかにやりたいこともない。「早く自立して社会人になりたい」そう思っている時に知人を通して舞い込んできたのが「女優のお仕事をしませんか?」というお誘いで。「このままじゃ時間も授業料ももったいないし、とりあえず、やってみるか」という気持ちで撮影現場に向かったんです(笑)。
お芝居はもちろんのこと、当時の私にとって撮影現場は初めてのことだらけで。とにかくすべてが新鮮で楽しかった。なかでも、私の心を強く惹きつけたのが“人”でした。私より若い子から祖父母と同じくらいの年齢のスタッフさんまで、撮影現場には幅広い年代の人がいて。そんな方々が上も下もなく対等な関係で働いている。みんなでお弁当を食べたり、ストーブを囲んで「寒いね」と言葉を掛けあったりしながら、朝から晩まで一緒になってひとつの作品に情熱を注いでいく……。それが本当に楽しくて。現場が楽しい、それが私が女優の仕事に本気になったきっかけであり、私が女優の仕事を続けているいちばんの理由でもあるんです。
誰かと比べたり、比べられる。20代はそれがきつかった
気づけば、この世界に飛び込んでから約30年。人生は本当にあっという間。あまりにも時の流れが速すぎて、過去のことをほとんど覚えていない私ですが(笑)、20代がしんどかったことは覚えているかな。20代は誰かと自分を比較したり比較されたり、まだまだ未熟だからこそ、いちばん比べられる時期だと思うんです。自分も経験が足りないから、それを上手にかわすことができないんですよね。かくいう私も比べられるたびにカチンッ。いつも怒っていました(笑)。でも、その怒りが力にもなった。「こんちくしょう! 見返してやるぞ!」って。ある意味、それもまた20代ならではのエネルギーのつくり方。だからこそ、思う存分カチンッときていいと思うんです。いずれきっと気づくはずだから。比べたり比べられたりすることの意味のなさに。自分が幸せかどうか、自分が満足しているかどうか、自分がどう思い感じているのか、それがいちばん大事だということに。
振り返ると、20代は「ああだ」、「こうだ」と周りからいちばん助言された年代だった気もします。未熟な自分に親切心で言ってくれているとは思うのですが、外側からの情報に心が追いつかなかったことも。そこで、私が学んだのは「何を言われたかじゃなくて、誰に言われたか」を大事にすること。たとえば、よく知らない人が口にするネガティブな言葉は“悪口”でしかないけれど、信頼する人が口にするそれは“苦言”になる。本当に大切な言葉を取捨選択する大切さに気づきました。
朝ドラ出演などで毎日目まぐるしかった30歳の頃
今も昔も大切にしているのは足もとを見て、今日を生きること
この世界に「とりあえず」の気持ちで飛び込んだように、私には考える前に動く無鉄砲な一面があります。30代はふたりの子供を出産したのですが、産後の復帰も早くできて。その理由は「やりたい作品がきたから、やりますと答えただけ」。あとはどうにかなるだろう、というか、どうにかすればいい、そんな気持ちで撮影現場に戻ったんです(笑)。
深く考えるのは得意でないうえに、過去や未来に目を向けるのも苦手。そんな私が今も昔も大切にしていることは「足もとを見て、今日を生きる」ということ。過去の時間は取り戻せないし、未来のことは予知できないけど、今この瞬間に自分の足もとを見て「私はちゃんと立てているか」確認することはできる。そこで、泥沼に足を突っ込んでいれば引き抜けばいいし、疲れているなら休めばいい。足もとを見れば自然と「今やるべきこと」も見えてくる。そうやって、一日一日を積み重ねていくことが大切だと思っています。
つらい時、苦しい時、心の中に浮かぶ言葉があります。それは、今は亡き明治生まれの祖母がよく口にした「何があっても、死ななきゃ大丈夫」という言葉です。幼稚園から泣きながら帰ると、いつもこの言葉をかけながら頭を撫でてくれた。戦争や苦しい時代を経験している人が口にするそれはとても説得力があって。思い出すたび気持ちが前を向くんです。だからこそ、今悩んだり迷ったりしている若者にも届けてあげたい。「大丈夫、生きていればどうにかなる!」ってね(笑)。
あの頃の私へ、伝えたいこと
年齢を重ねるたびどんどん楽しくなるよ!
27歳の頃と比べると47歳になった私は何倍も人生を楽しめています。その理由は「今の私はたくさんの人生の知恵を持っている」から。そして、その知恵は経験によって手に入るもの。「無鉄砲でもいい、そのまま経験をたくさん積みなさい」も伝えてあげたい言葉ですね(笑)。
Yoshino’s 47years
19歳 NHK『元気をあげる〜救命救急医物語』でドラマデビュー
21歳 『失楽園』で映画デビュー
同作品で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞
29歳 映画『蟬しぐれ』に出演
同作品で日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞
31歳 映画『ドリーム・クルーズ』に主演し、ハリウッドデビュー
34歳 映画『告白』に出演
同作品でブルーリボン賞助演女優賞、
日本アカデミー賞助演女優賞を受賞
36歳 ドラマ『はつ恋』(NHK)主演
42歳 ドラマ『後妻業』(フジテレビ系)主演
44歳 ドラマ『恋する母たち』(TBS系)主演
46歳 ドラマ『我らがパラダイス』(NHK BSプレミアム)主演
※主な出演作の一部を抜粋
きむら・よしの●1976年生まれ、東京都出身。1996年に女優デビュー。テレビ、映画、舞台、CMなど幅広く活躍中。現在『所さん!事件ですよ』(NHK・木曜23時〜)に出演するほか、7月スタートのドラマ『この素晴らしき世界』(フジテレビ系・木曜22時〜)に出演予定
撮影/山根悠太郎(TRON) ヘア&メイク/Otama スタイリスト/中井綾子(crêpe) 取材・原文/石井美輪 ※MORE2023年8月号掲載