アイナ・ジ・エンドに聞く。 演じること、映画『キリエのうた』のこと、共演者のこと。【インタビュー前編】
元BiSHのメンバー、アイナ・ジ・エンドさんが、岩井俊二監督の映画『キリエのうた』で初主演を務めます。作中では演技だけでなく、主題歌を歌唱。さらに劇中歌6曲を作詞作曲して歌い、得意のダンスも披露しているそう。松村北斗(SixTONES)さんや黒木華さん、広瀬すずさんなど、共演者も超豪華。「絶対観たい!」という声多数な、話題の作品です。
キリエと私は似た者同士。だからこそ、共鳴する
――映画『キリエのうた』では、路上ミュージシャンの役を演じられましたね。「歌うことでしか声が出せない」という役柄だそうですが、シンガーソングライターとして活動されているご自身と重なる部分はありましたか?
実は私自身も、人とうまく話せなかった時期があるんです。たしか高校生の時くらいかな。本心を人に言おうとすると声が詰まってしまって。その頃は、“意図していないないところで人を傷つけてしまうんじゃないか”と怖かったんです。今作で演じたキリエは歌だったら本音が言えるのですが、普段は声が出せない。そこが昔の自分と似ていたし、上京して音楽活動するところも自分の人生と重なる部分が多かったので、共感しながらぐっと役に入ることができました。
――映画主演は初めてだそうですが、撮影はいかがでしたか?
初めての映画出演なのに、さらに初主演。もちろん、演技について何もかもが初めてで、日々勉強でした。撮影中にさまざまなことをみなさんに教えていただいた感覚です。特にびっくりしたのは、カットが全然かからないこと。岩井監督が独特なのかもしれませんが、とにかく長回しが多いんです。セリフは言い終わっているのにカットがかからないので、ずっとアドリブで演技をし続けていました。その効果で自分たちも想像していなかったようなお芝居が生まれて……! 衝撃でしたね。
広瀬すずさんの演技に鳥肌! 体当たりで挑んだ撮影
――夏彦役の松村北斗さんやイッコ役の広瀬すずさんとの共演シーンもたくさんありましたが、おふたりから感じたことや学んだことはありますか?
おふたりには本当に感謝しています。すずちゃんと同じシーンでは「俳優として本当にプロだな」と感動。「スタート!」って声がかかった瞬間に目がぐって変わるので、鳥肌が立ちました。すずちゃんって、多くを語らないんです。「お芝居っていうのは〇〇で〜」なんてことは一切言わないのに、目と体で教えてくれる。撮影中はついていこうと精いっぱいでしたし、いつもあの美しい黒目に吸い込まれそうでした。松村さんも優しく現場を引っ張ってくださり、本当に〝お兄ちゃん〟のように感じていました。
――主人公キリエが関わる登場人物、イッコや夏彦はどんな人物像だと思いましたか?
イッコさんは腹を括っている女性。失うものばかりの人生を歩んできたからこそ、もう何も失うものはない。そういう勇ましさが見え隠れする瞬間がある人です。表面上はすごくヘラヘラしているんですけどね。キリエがイッコさんを心から慕っていたのは、その強さに惹かれたからなんじゃないかなと。夏彦は、救いようがないくらいずっと暗がりにいる男性。でも、どんな状況でも走り続ける人なんです。肝が据わっているわけではないけれど、がむしゃらな強さがありました。そんな荒削りな少年が深く成長していくさまを見ていて、尊敬できる人物だなって感じましたね。
ずっと変わらない、BiSHメンバーへの愛
――BiSHを卒業し、女優・歌手として新たなスタートを切ったアイナさん。BiSHの元メンバーとの関係は何か変わったりしましたか?
正直、今はまだよくわからなくて。メンバーとはずっと一緒に過ごしてきたので、もはや1周、2周回っている感じなんです。いざこざとかももうないですし、「メンバーのためにできることがあるならなんでもしたい」って私は今も思っています。あ、みんなはどう思っているかわからないですよ?(笑)。でも、解散したから終わり、なんてことはなくて、私はみんなのことが大好き。それはずっと変わらないんですよね。
アイナ・ジ・エンド さん プロフィール
あいな・じ・えんど●大阪府出身。2015年3月に“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーとして始動。2021年よりソロ活動を本格化させる。2023年6月29日に東京ドームのラストライブにてBiSHが解散し、現在は表現者としてマルチに活躍中。10月18日にはKyrie名義でアルバム『DEBUT』を発売。
音楽映画『キリエのうた』 は10月13日(金)公開
【STORY】
歌うことでしか声を出すことができない路上ミュージシャンのキリエ(アイナ・ジ・エンド)はある夜、過去と名前を捨てた謎の女・イッコ(広瀬すず)と出会う。イッコはキリエの歌を聴きマネージャーを買って出るが……。石巻、大阪、帯広、東京で歌をつむぎながら、過去にとらわれた青年・夏彦(松村北斗)や教師のフミ(黒木華)、イッコやキリエの過去が交差する、忘れられない物語。
ドレス¥126500/イザ(ヌメロ ヴェントゥーノ) 中に着たキャミソールワンピース¥53760/リディア(スーベニア) ピアス¥10450/ザ・ウォール ショールーム(ジュスティーヌ クランケ)
撮影/渡辺宏樹(TRON) ヘア&メイク/KATO(TRON) スタイリスト/菅沼愛(TRON) 取材・文/衛藤理絵