北川景子が小説『落日』の朗読に挑む「聴いた人の“人生の一部”になればうれしい」
北川景子さんインタビュー
俳優の北川景子さんが、オーディオブックおよび音声コンテンツ制作・配信サービスであるAmazonオーディブル(以下、Audible)にて、朗読に挑みました。朗読するのは11月13日(水)から配信を開始する作品、『落日』。湊かなえ氏の話題作で、最高の衝撃&感動の長篇ミステリー小説です。ストーリーは、新進気鋭の映画監督と新人脚本家が、映画作りのために15年前に起きた“笹塚町一家殺害事件”の真相を探っていく……というもの。実は北川さんは、2023年に『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』(WOWOW)としてドラマ化された際に、主人公・長谷部香を演じました。今回あらためて語った作品への思いや、朗読を通しての気づきのお話などをお届けします。
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「ドラマで演じきったからこそ、戸惑いも感じた」
――Audible版『落日』のオファーを受けた時、どう思いましたか?
北川景子さん(以下、北川):正直に言いますと、「私じゃないほうがいいのでは」と思いました。ドラマでは長谷部香というひとりの人物を演じることに注力しましたが、朗読では作品全体を同じ熱量で伝えないといけない。竹内涼真さんが演じた立石力輝斗も、吉岡里帆さんが演じた甲斐真尋も、すべての役をひとりで声だけで演じなくてはなりません。思い入れが深い作品だったからこそ、“長谷部香”を自分から切り離すことができるのかどうかが分からなくて……。そういう意味で、作品にフラットに向き合える方がいいんじゃないか、と最初は思いました。
――そこからオファーを受けるまでに、心を動かす何かがあったのですね?
北川:年齢を重ねるにつれ、新しい挑戦の機会をいただくということが少なくなってきたように思います。でも、今回は新しい経験をさせていただく貴重なチャンス。これまでも、難しくて大変だった仕事を通して、成長できたり前に進めることが多かったので、今回も絶対に意味があるだろうと考えました。それに加えて大きかったのは、湊かなえ先生の存在です。「北川さんにぜひ」とおっしゃってくださったそうです。実際、録音の現場にも来てくださいました。そのような先生の存在が、私が一歩踏み出す大きな力となりました。
――“朗読”をしてみて、いかがでしたか?
北川:映像では、その役の衣装やヘアメイク、身振り手振りや表情で、視覚的にキャラクターを表現します。でも、今回は声だけで作品を100%伝えなくてはいけない。心を込めて感情でやれば伝わる、ということでもなく、発音や滑舌など技術的なことをしっかりしなければならない。冷静な状態で伝える説明の部分がある一方、会話劇にもなる。劇中は男性や子供、年齢や性別も異なる声が何十種類も。ものすごく難しく感じました。
最初は正解が分からず、手探りで挑みました。録音した直後、監督がチェックしてから指示があるのですが、それを待っている何分間か、静かなブースにひとりでいる時間は、本当に不安でしたね。
テクニカルなことは声優さんには絶対にかなわないから、最終的には自分が感じたようにやろうと思いました。ようやく「朗読って、こういう感じなのか」と分かりかけた頃にレコーディングが終わったような気がします。
北川さんにとっての「表現」とは何か
北川:17歳の時に雑誌『SEVENTEEN』のモデルとしてデビューしてから21年目になりました。モデルとしても俳優としても「表現とは何か」をずっと考え続けてきた気がします。演技について、若い頃は「自分が気持ちよく“役になりきれた”と思えたら正解だ」と考えていた時もありました。でも、経験を積んで20代半ばになった頃、感情と技術のバランスを考えるように。「冷静な自分が、もう1人の演じている自分を見ているくらいが正解なんだ。それが伝えるということなんだ」、そう考えたこともありました。
今回、朗読というお仕事をしてみて、こう思います。「結局は“心”なんじゃないか」と。朗読は声だけですべてを表現します。語り手としては、「とにかく聞き手に届いてほしい」と、切実な気持ちになる。自分には声色を変える技術もないし、幅広いキーが出せるわけでもない。だからこそ「この声があなたに届くように」と祈りながら、作業をしました。
キャリアが重なるにつれて「表現についての正解」を探してしまっていました。もちろんそれも大事です。けれど、「とにかく届いてほしい」という気持ちこそが、一番大事なんじゃないかと。『SEVENTEEN』のモデルをさせてもらっていた頃、カメラの前に立ちながら、雑誌を手に取ってくれる人に「届いてほしい」と思っていた。祈りにも似たあの感覚を取り戻すことができたというか、思い起こせたのは、すごくいい経験でした。
――今回の挑戦を通して、また初心にたどりついたのですね。
北川:ドラマや映画で新作に携わる時、新しい気持ちで臨みますが、メイク部屋に入り、スタンバイして、扮装して、演技して……と、自分のことが想像できます。でも、今回のような朗読作業は初めてのことばかりで、気分はデビュー1年目の新人でした。何も知らない、何もできない。そんな自分が、いろんな角度から体当たりでぶつかって、間違えて。新しい仕事に挑戦するかしないかは、選べるじゃないですか。自分は挑戦を選びました。挑戦しないと見えてこない自分を知ることができました。ルーティンではなく、新しいことにもっともっと挑戦していきたいです。
お子さんへの読み聞かせにも変化が
――今回の朗読のお仕事を通して、お子さんに読み聞かせをする際の変化などはありましたか。
北川:「気づき」が多かったかもしれません。子供に読み聞かせをする時は、キャラクターに合わせて声の雰囲気を変えますよね。お母さんなら優しく、子どもならかわいく、というふうに。朗読もそれと同じなんですが、聞かせる相手が自分の子供なら思い切ってできるんですけど、たくさんの方が聞くと思うと急に“ちゃんとしなくちゃ”という気持ちになってしまって。でも、レコーディングの初日の夜、子供に絵本を読み聞かせる時、いつもより楽しかったんですよね。その時、「これでいいじゃん!」みたいな気持ちになって。Audibleを聴く方にも「親に読み聞かせてもらっていた時のような楽しさの記憶」があるんじゃないか。聴いた当時の情景がセットになっていたりするのかな……と感じて。私にとって「本」や「音楽」がそうです、出合った時の情景を思い出す。だから「誰かの人生の一部になる読み聞かせって、いいな」と思いました。そこから、「朗読で誰かに届けたい、響いてほしい」と思うようになった気がします。
――朗読の楽しさやよさに気づいたきっかけは、ご家庭でだったのですね。
北川:ええ。ただ、レコーディングをした日は5~6時間しゃべりっぱなしになるので、声が疲れているんです。帰宅してガラガラ声で、「今日は短めな絵本だとうれしいな~」と子供に逆リクエストをしていました(笑)。でも、次の日がレコーディングだという夜にも、「もう1冊読んで!」という注文があって(笑)! 朗読を乗り越えた今は、「もう1冊!」を何回ループされても怖くないくらいには成長しました。
北川さんの家族に関するマイルール
ーーところで北川さん、ご家庭に関するマイルールはありますか?
北川:「できる限り家族と一緒に過ごすこと」ですね。私も夫もお互いに、家族との交流を大切にしてきました。なので、子供が生まれてからは、子供と過ごす時間をすごく大事にしています。子供の人となりを知ることができるし、後々思い出にもなるでしょう? と言っても共働きなので、全員で過ごせる時間をどう捻出するかはいつも気にしています。夫も意識してくれていますが、家族が一緒に過ごせる時間って、どうしても限りがあるじゃないですか。思うように予定が組めなかった場合は、子供扱いせずに、しっかりと説明するようにしています。
ーー具体的にはどのようなことでしょうか。
北川:たとえば仕事で帰りが遅くなる場合。「ママは今日、大事な仕事で遅くなるけど、パパが先に帰ってくるからパパといい子にしててね」と言うんです。「仕事というワードがまだ分からないんじゃないか」「どう説明したらいいんだろう」と夫と話し合いながら、あいまいに説明するのはよくないという結論に至りました。だから、中途半端に言葉を濁さない。「お仕事に行くことはすごく大事なことだ」と伝えます。「あなたたちが生まれるずっと前から、ママがずっと大切に続けてきていることだから出かけるよ。でもパパはいるよ」。そんなふうに伝えて、どっちかが絶対家にいるようにしています。「今日はパパがお仕事で地方にいる」とか「出張」だとか、そういうのも全部伝えます。そうすると、子供って分かるようになるんですよ、「自分を置いていったわけじゃない」「パパが出張ってことは、ママはいるんだ」という感じで。そんなふうにわが家のルーティンにしていって、子供が寂しくないようにしたいなとかはやっていますね。
プロフィール
きたがわ・けいこ:1986年兵庫県生まれ。モデルを経て2003年に俳優デビュー。 2006年、『間宮兄弟』で映画初出演。 主な出演作に、ドラマ『悪夢ちゃん』、『HERO』、『家売る女』、『西郷どん』、『リコカツ』、『女神の教室~リーガル青春白書~』『どうする家康』、映画『ワイルドスピードX3:TOKYO DRIFT』、『Dear Friends』、『パラダイス・キス』、『君の膵臓をたべたい』、『探偵はBARにいる3』、『スマホを落としただけなのに』、『約束のネバーランド』、『ファーストラヴ』、『キネマの神様』、『大河への道』、『それいけ!アンパンマン ドロリンとバケ~るカーニバル』などがある。
Audible作品概要
タイトル:『落日』
著者:湊かなえ
ナレーター:北川景子
配信日:2024年11月13日
作品URL : https://www.audible.co.jp/pd/B0DKH7XNWV
Audible公式URL:https://www.audible.co.jp
『落日』あらすじ
わたしがまだ時折、自殺願望に取り付かれていた頃、サラちゃんは殺された──新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。十五年前、引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた『笹塚町一家殺害事件』。笹塚町は千尋の生まれ故郷でもあった。香はこの事件を何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。そこには隠された驚愕の「真実」があった……令和最高の衝撃&感動の長篇ミステリー。
撮影/齊藤晴香 取材・文/中川薫
スタイリスト/細見佳代(ZEN CREATIVE) ヘア&メイク/山口久勝
・シースルーシャツ¥41800・オールインワン¥143000/AKIKO OGAWA 問い合わせ先:AKIKO OGAWA (アキコ オガワ)℡03-6450-5417
・リング/ete ピアス/Jouete ともに問い合わせ先:℡0120-10-6616