【澤 穂希】語学力ほぼゼロで挑んだ20歳での渡米。夢を叶えるまでの苦労を語る
今の20代に向けた、素敵な人生の先輩から言葉のエール
恋愛や結婚、仕事、将来への不安……etc. たくさんの悩みや葛藤を抱え、揺れながら生きる20代。同じように雌伏の時を経て、30代、40代で光り輝く先輩に、人生の歩み方のヒントをうかがいました。今回は元サッカー女子日本代表選手の澤穂希さんにインタビュー。
20歳で日本を飛び出し渡米。“人見知りな日本人”の殻をそこで脱ぎ捨てました
「今しかない」と大学を中退し単身アメリカプロリーグへ
日本女子サッカー界の先駆者・澤穂希さんが海を渡ったのは弱冠20歳の時。
「当時のチームメイトからアメリカに女子のプロリーグができると聞き、挑戦するなら今しかないと思いきりました。でも、行ってみたら本当に過酷で。就労ビザがないから働けない、車もない、貯金はわずか。チームメイトの家に泊めてもらいながら、昼間はじっと孤独に耐え、夕方からの練習に参加するという毎日を送っていました。親や友人に電話をしたら絶対に帰りたくなると思ったので、連絡手段はもっぱら手紙でした」
当初は語学力もほぼゼロ。そのため、チームメイトと通じあえるようになるまでに、1年はかかったと言います。
「もともとはシャイでしたが、向こうでは言葉にしないと伝わらない。『日本人は〝メイビー〟を使いすぎ。イエス、ノーどっちなの?』と言われ、ごまかさずはっきり言わなきゃダメなんだと学びました。おかげで別人のようにフレンドリーで積極的な人間に変わったと思います」
リーグ休止とともに帰国することになりましたが、20代前半を海外で過ごして得たものはたくさんあったそう。
「英語の習得はもちろん、さまざまな国の人と出会えたし、異国でお金を稼ぎ、確定申告する方法まで覚えた。人に頼らずすべてを自分でやる力を身につけたことが、後の人生でとても役立ちました」
人と比べない。自分のよさをひたすら磨き、自信につなげて
その後帰国し、30代で再度渡米。
「若い頃と違って『安定』という言葉が頭をよぎり、正直迷いました。でも、迷うということは行きたいという気持ちがあるということ。後悔したくなかったので、再びアメリカに戻りました」
その後の活躍は周知のとおり。W杯優勝、五輪銀メダル獲得など、「夢は見るものではなく叶えるもの」と語る澤さんらしい有言実行ぶりを見せていきます。
「自分は決して身体能力に恵まれていたわけではない。走力、跳躍力などの能力は、実はすべて平均くらいなんです。でも結果を出せたのは、『ここぞという時に決め切る』という自分の強みを把握し、それを磨いたからだと思います」
その実力を発揮するためには、日々の研鑽も当然必要だったと言います。
「自分に自信をつけるには、努力するしかない。当たり前のことですが、一日一日練習を積み重ねて、自分ができなかったことをそのままにしないというのが、結果を出すためには必須だと思います」
人生で後悔はないという澤さんですが、最後にこんなアドバイスも。
「途中で勉強を投げ出してしまったので、今になってもっと語彙力や知識があればと感じることも。私は幸い学び直しの機会を得ていますが、できることなら未来の自分のために、どんな分野でもいいので勉強をし続けてほしいです」
My turning point
12歳(1991)
読売サッカークラブ女子 ・ ベレーザ入団
15歳(1993)
日本代表デビュー
20歳(1999)
渡米しコロラド ・ デンバー ・ ダイヤモンズ入団
22歳(2000)
アトランタ ・ ビートへ移籍
25歳(2003)
アメリカ女子プロリーグ休止で帰国
26歳(2004)
アジア年間最優秀選手賞を受賞、日テレ ・ ベレーザにプロ契約選手として復帰
30歳(2009)
再渡米しワシントン ・ フリーダムヘ
32歳(2011)
INAC神戸レオネッサへ移籍
FIFA女子ワールドカップに出場し優勝、得点王とMVPに輝く
33歳(2012)
FIFA最優秀選手賞をアジア人として史上初受賞
ロンドン五輪出場、銀メダルを獲得
36歳(2015)
FIFA女子ワールドカップ出場。結婚、引退
38歳(2017)
長女を出産
My Twenties
(左)渡米の日、空港に見送りに来てくれた母と。20歳の時 (右)米セミプロリーグ、コロラド・デンバー・ダイヤモンズ在籍時の21歳。チームメイトとロッカールームにて
澤穂希さんが迷える20代に明解アドバイス!
Q. 将来についてもっと考えるべき?
大学卒業後、コーヒースタンドのオーナーをしています。好きな仕事に就き、素敵な方々に囲まれていますが、親や周りから「先のことを考えたほうがいい」と言われてしまいます。将来についてもっと考えるべきでしょうか?(27歳・飲食業)
今の場所で頑張った先に目標を探してみては
将来は今の続きにあるもの。別物と考えずに、今目の前にあることを頑張った先にどんなことができるのかを考えてみては? 全然関係のない大きな目標を掲げるだけでは意味がないから、レンガを積み上げるように今やっていることを重ね、確実に進むのが現実的なのかなと。それと、親と自分の人生は切り離して考えていいと思います。ただ、心配はされると思うので、大まかなビジョンをわかりやすく説明するなどして、きちんと対応を。
Q. 仕事と子ども、どちらか選ぶ必要がある?
仕事に大きなやりがいを感じています。子どもを持ったら、正直今と同じ働き方はできないため、いずれどちらかを取らなければいけないのかと悩んでいます。(30歳・マーケティング)
自分が納得してどちらかを選ぶようにする
私はサッカーをやりきるというのを最優先にしていたので、結婚や出産を意識的に後回しにしていました。引退してすぐに子どもを授かることができたのは、とても幸運だったと思います。でも、タイミングに悩んだり、どちらかを選ばなければならないという方も多いですよね。その時に、2つの選択肢を比べて、自分が納得いくまでとことん考えるのが大事なんじゃないかなと。どちらかを選べた自分を肯定してあげられるよう、じっくり悩んでください。
Q. 職場で陰口を言っている人が。自分の気持ちを整理するには?
職場で常に陰口を言っている人がいます。気にせずにいたいのですが、 耳に入って気になってしまい…… どのように自分の気持ちを整理するのがよいでしょうか。(29歳 ・ 経営)
疲れる前にシャットアウトを
陰口ってダサいし、聞いていると疲れちゃう。私は人の悪いところではなく、いいところを見たいタイプなので、それに引っぱられる時間がもったいないなぁと思います。「この人幸せじゃないんだろうな」と考えてその話には耳を貸さず、自分のことに専念して。
最後に、20代への3つのアドバイス
・後悔しないように行動する
・自分の強みを把握して磨く
・未来の自分のために勉強をし続ける
Text&Edit : Mizuho Kurita