12星座全体の運勢

「飛び地へとアクセスしていくこと」

6月21日には372年ぶりの夏至の日食(新月)がありましたが、7月22日からの「大暑」に前後する7月21日にはそれに続き蟹座での2度目の新月を迎えます。

今回の新月は「取り込まれるべき大きな物語」がテーマだった前回の新月に対するフォローアップ的な位置づけにあり、この一カ月のあいだに土星が山羊座へ戻り“試練や課題”が明確になってきた状況において、改めてこれからその中で生きていきたい世界や価値観を選びなおしていく軌道修正のタイミングなのだと言えるでしょう。

その際、意識していきたいのが「直感に従って選ぶ」ということ。もしいまあなたの前に二つないし複数の選択肢があるなら、以前の自分であれば無意識的にこっちを選んでいたなという“自分が逃げ込みがちな”選択肢(しかし長い目で見れば破綻が明らかな)ではなく、一見奇妙に見えたり、これまでの現実の延長線上から外れたところに現れた“飛び地”的な(したがってほとんど孤立した)特異点、すなわち未知の領野へアクセスするような選択肢を選んでいきたいところです。

天秤座(てんびん座)

今期のてんびん座のキーワードは、「待ってても来ない」。

天秤座のイラスト
夕暮れの田舎道、一本の木のそばで、「どうにもならん」とつぶやきながらゴドーさんを待ち続けるボロ着姿で縛られたままのエストラゴンとウラジミールという二人の老浮浪者。

そこにムチを手にしたポッツォと犬のように首に綱を着けられた従者ラッキーが通りかかるが何も起きず、次に少年があらわれて「ゴドーさんが、今晩は来られないけれど、あしたは必ず行くからって」と告げるが、やはり何も起きない。

というのが、不条理演劇の金字塔とされるサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』というお芝居の第一幕のあらすじ。ちなみに第二幕も終始そんな調子で、時間・空間も不明で記憶もあいまいなまま進み結局なにも起こらないまま終わっていきます。

出てくる誰かに感情移入したいという心理も働いて、縛られているこの二人は、じつは本当はまっとうな奴なんじゃないか、この状況を説明してくれるんじゃないか、という期待が持ち上がるものの、「じゃあ行くか?」「ああ行こう」と言い合いながらも動かない下りでやっぱり裏切られる。

そうして軽やかに顕在化された「人生とは、ただ待っているだけの状態に過ぎない」という救いようもないメッセージは、その圧倒的などうしようもなさと共に、今のてんびん座の人たちにはよく響くのではないでしょうか。

すっかり価値の壊れた瓦礫の世界の中で、今日もまた無意味なことをしゃべり続けている多くの人たちがいる。それを「然り」と引き受けた上で、誰か何かに期待するだけで終わるのではなく、みずからの手で縛りつけられたこの場をいかに楽しむか、ささやかでも自らの手で価値を生み出していけるかを問うていきたいところです。


出典:サミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』(白水Uブックス)
12星座占い<7/12~7/25>まとめはこちら
<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ