12星座全体の運勢

「白紙にかえす」

「暑さ寒さも彼岸まで」の秋分直前の9月17日に、おとめ座で新月を迎えていきます。

夏のにぎわいが遠のき、秋らしくなるにつれ、次第に風が透き通っていくように感じられてくる頃合いですが、そうした時に吹く風を昔から「色なき風」と呼んできました。

中国から伝わった五行説によると、秋の色は白。日本人は、その白を、「色無き」と言い換えた訳です。本来は華やかさがないという意味でしたが、言い換えられていくうちに、しみわたるような寂寥感を言い表すようになっていったのだそうです。

そして、今回のおとめ座新月のテーマは「初心に返る」。能の大成者である世阿弥の「初心忘るべからず」という言葉と共に知られる「初心」は、普通に考えられているような“最初の志”のことではなく、自分が未熟であった頃の“最初の試練や失敗”の意ですが、これは試練に圧倒されたり、失敗の前に膝をついたりしたことのない者には、本当の成功はいつまでもやってこないのだということを指します。

そうした失敗や挫折を不当だとか、相手や世間が悪いと思い込むのではなくて、そこから人間としての完成に近づくための新たな挑戦が始まるのだと気付くこともまた「初心」なのです。人生には幾つもの初心がある。そんなことに思い至ることができた時には、きっと心のなかをとびきりの「色なき風」が吹き抜けていくはず。

蠍座(さそり座)

今期のさそり座のキーワードは、「『自省録』スタイル」。

蠍座のイラスト
現代人は技術の進歩と比例するかのように、ますます多忙を極めるようになってきていますが、こと多忙さという点では最盛期のローマ帝国で第十六代皇帝となって巨大組織を牽引したマルクス・アウレリウスに匹敵する者はほとんどいないでしょう。

彼は古代ギリシャの哲学者プラトンが理想とした哲人政治を、人類史上ただ一人行ったリーダーでもありましたが、彼が自分自身との対話の記録を日記形式で残した『自省録』は、ゲルマン人の反乱を制圧すべく向かった北境の遠征地でも書き継がれていきました。

もはやさ迷い歩くな。(中略)おまえの生の目的に向かって一路急げ
おまえがある者の無恥に怒りを覚えるときには、直ちにおまえ自身に尋ねよ、『いったいこの宇宙の無恥な者どもが存在しないことができるか』と。ならば、できないことを求めぬことだ

このように、彼は起きた事実を日記にそのまま記録したのではなく、自分がなすべき行動の規範を綴ったのです。そうすることで、実行すべき内容が意識の上に自然と定着していく。2000年前の超多忙な著者によって壮年時代から晩年まで実践され続けたこうした『自省録』というスタイルは、誰にでも簡単に実行できる、人生をより手応えのあるものにする優れた方法論と言えます。

彼は生来とても内向的な人で、華々しい皇帝職よりも本来は学者として静かにものを考えることを好んでいたのですが、『自省録』はそんな彼だからこそ編み出せた、自分の人生に起きる出来事を受容し、困難を乗り越えるための秘訣に他なりませんでした。

同様に、今期のさそり座もまた現実に起きた出来事をいかに受容していくかという問題に直面していきやすいはず。新月らしく、新しいノートを一冊おろして、試しに「起きたことにはすべて意味がある」という観点から、思いついたことをつらつらと書いてみるといいでしょう。


参考:マルクス・アウレリウス、鈴木照雄訳「自省録」(講談社学術文庫)
12星座占い<9/6~9/19>まとめはこちら
<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ