12星座全体の運勢

「裸のまんま」 

2021年の最初の満月は「大寒」と「立春」のはざまにあたる1月29日、寒さのもっとも厳しくなる時期です。とはいえ、雪の間から蕗の薹が顔を出し、鶏が卵を産み始める頃ともされており、どこか新たな希望も兆していきます。 

 そんな今回のしし座満月のテーマは「ゾーエー」。これはギリシャ語で「剝き出しの生」の意味で、「社会的な生」である「ビオス」との対比で用いられる言葉です。両者はふだん区別がつかないように縫い合わされており、特につねに何かしていなければ落ち着かない現代人にとっては、前者はほとんどの場合、「私は〇〇をしています」とか「●●という会社に勤めています」といった後者の在り方に覆い尽くされているように思います。 

 しかし、立春が一年の節目であった旧暦では、立春前はいわば一年の穢れを祓う年越しの時期でもあった訳で、そのタイミングで迎える満月はいつの間にか見失いがちな「ゾーエー」、すなわち、できる限り身にまとっていた虚飾を脱いで、余計なこともせず、何もしないでただ在ること(being)のありがたみやその効用について思い出していくには、絶好の機会と言えます。 

 じつは節分の豆まきも、もともとは年越しの行事でした。今では節分は立春の前日一日だけの行事になってしまいましたが(2021年の節分は2月2日)、邪気を祓って幸せを祈る気持ちは変わらないはず。今期の満月前後の数日間は、ひとつそんな気持ちでただ存れるよう、試みてみるといいでしょう。 

獅子座(しし座)

今期のしし座のキーワードは、「これでいいのだ」。

獅子座のイラスト
漫画家の赤塚不二夫さんの告別式が2008年8月7日、東京都中野区の宝仙寺で営まれた際、彼を「肉親以上の存在」と慕っていたタモリ氏は、次のような弔辞を読みました。 
 
あなたの考えは、すべての出来事、存在をあるがままに、前向きに肯定し、受け入れることです。それによって人間は重苦しい意味の世界から解放され、軽やかになり、また時間は前後関係を解き放たれて、その時その場(瞬間)が異様に明るく感じられます。この考えをあなたは、見事に一言で言い表しています。すなわち、「これでいいのだ」と。」 
 
極度の恥ずかしがり屋で、何度入退院を繰り返しても人と会うのに酒とタバコをやめられなかった生前の赤塚氏の行状は、一見でたらめなものではありましたが、タモリ氏が言うように、そこには何の変哲もない日常に永遠の幸福を宿らせる一瞬が確かにあり、それを彼の周囲にいたたくさんの人たちが「異様に明るく」なる瞬間として直接体験していたのでしょう。 
 
もちろん、普通に考えれば食道がんで長期入院した後も酒を飲み続けたりすれば、「これでいいわけがない」のですが、それでも私が生きて在るという事実そのものを消し去ることは誰にもできませんし、その前にも後にも生というものはないのだと肯定するとき、その人は永遠に通じている生の瞬間を全力で生きている。他ならぬ赤塚氏は、そのことをどこまでも素直に実行できた人だったように思います。 
 
その意味では、ゾーエー(非意識的生命性)と言ったって、別に難しいことを考えたり行なったりする必要はなくて、よく眠ること、よく食べること、よく歩くこと、よく話すこと、よく愛すること、これらはすべて、確実に幸福の条件なのだということが分かります。 
 
今期のしし座は、そうやって喪ったいまを改めて取り戻していくことができるかが問われていくでしょう。 


参考:『文芸春秋 2011年1月号』 
12星座占い<1/10~1/23>まとめはこちら
<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ