12星座全体の運勢

「土壇場で人を救うもの」 

5月5日に「立夏」を過ぎると、野に煙る緑にまぶしい日差しと、初夏らしく気持ちのいい気候が続きます。昔は梅雨の晴れ間を指した「五月晴れ」も、今やすっかりこの時期特有のさわやかな晴天を指すようになりましたが、そんな中、5月12日にはおうし座21度(数え度数22度)で新月を迎えていきます。 

今回の新月はテーマは「(自分だけでなく周囲の)バイブレーションのレベルを上げていくこと」。古来より、飢饉の影響で出る死者は実は春から夏にかけてがピークだったと言われてきましたが、西郷信綱の『古代人と夢』によれば、疫病や飢餓などで人々がみな死に絶えてしまうような事態に陥ると、天皇は「神床(カムドコ)」に寝て夢のお告げを得ることで、やがて疫病はおさまり国家安平になったという逸話が伝えられているそうです。 

これはつまり、人間にとって本当の意味での危機的な状況とは、物質的な欠乏に加え霊的目標の飢餓に陥った状況を指し、逆にそれに飢えている人びとと霊的滋養―導きとなるようなイメージやビジョン等を分かちあうことができれば、乗り切ることも可能となるということではないでしょうか。 

四季にはそれぞれの到来を知らせる風があり、春ならば東風(こち)、冬は木枯らしと決まっていて、夏といえば「風薫る」。すなわち、青葉若葉を吹き抜けて、さあっと吹いて新緑の香りを運んでくる強めの南風がそれにあたりますが、同時にそれは、生きるか死ぬかという人間の土壇場で人を生かしてくれる“いのちの手触り”のようなものでもあったように思います。 

12日のおうし座新月前後までの今期は、そうした生きるか死ぬかの土壇場を乗り切っていく上で、自分なりの美学をいかに持てるかどうか、貫いていけるか否か、ということが問われていくでしょう。 

蠍座(さそり座)

今期のさそり座のキーワードは、「恋の狂気」。

蠍座のイラスト
プラトンの対話篇『パイドロス』では、ソクラテスとアテネの若者パイドロスが、主に同性間におけるエロスをめぐって語り合っていきますが、その中で恋のはらむ狂気の側面を明らかに悪いものとして論じるパイドロスに対して、ソクラテスは真っ向から反論していきます。 
 
ソクラテスによれば、私たちの身に起こる多くのよいことのなかで最も偉大なものはその狂気を通じて生じるものではないかと自論を展開していくのです。というのも、恋は神から与えられる狂気であり、恋する魂のそれはイデアの知を愛し求める姿勢に通じるというのです。 
 
哲学者の佐藤康邦はこの点について、『古代ギリシャにおける哲学的知性の目覚め』の中で、真実在としてのイデアを見ることは「秘儀」の類に他ならず、「そのような秘儀に専心し、世の中の「あくせくとした営み」を忘れてしまった人、そこで真の哲人と呼ばれる人は狂気の人ともみなされうるであろう。しかし、それこそが、「恋する人」の真のあり方に他ならない」のだと指摘しています。 
 
そんな恋する人=真の哲人の狂いっぷりについて、ソクラテスが熱を込めて語っている箇所の一部を以下に引用してみましょう。 
 
この世の何びとをも、この美しい人より大切に思うようなことはない。彼は、母を忘れ、兄弟を忘れ、友を忘れ、あらゆる人を忘れる。財産をかえりみずにこれを失っても、少しも意に介さない。それまで自分が誇りにしていた、規則にはまったことも、体裁のよいことも、すべてこれをないがしろにして、甘んじて奴隷の身となり、人が許してくれさえすればどのようなところにでも横になって、恋いこがれているその人のできるだけ近くで、夜を過ごそうとする。」 
 
なるほど、「恋いこがれているその人」をイデア(真実在)の語に置き換えてみれば、プラトンによって定立された「哲学者」という生き様というものがどれだけ凄まじいものだったのかということが実感できるのではないでしょうか。 
 
今期のさそり座もまた、そうした類の狂気をこそ見習っていきたいところです。 


参考:プラトン、藤沢令夫訳『パイドロス』(岩波文庫) 
佐藤康邦『古代ギリシャにおける哲学的知性の目覚め』(放送大学叢書) 
12星座占い<5/2~5/15>まとめはこちら
<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ